乳房が激しく揺れると、舞台の上でポロリと落ちる。接着剤を使うと、肌が荒れたり、ただれたりした。米粒で作った糊(のり)で貼っても、万全ではなかった。

 下半身には、「ツンパ」(パンツの逆さ言葉)という三角形の布をつけた。細くて丈夫なテグス(釣り糸)で腰に装着し、ふんどしのように前を隠す。「ただの三角形では面白くない」と、蝶の羽のような形にしたり、ラメで輝くようにしたりと、あの手この手で観客を魅了した。

 後ろから見ると、何も装着していないように見えた。しかし、踊っている間にテグスが股やお尻にどんどん食い込む。「切れ痔(じ)になりやすい」と苦情を訴えるヌードさんもいたそうだ。

 おへそとツンパの距離が離れていればいるほどヌードさんの給料は上がった。着衣面積と給料とは反比例の関係にあったのだ。

 わざとツンパを落とす踊り子もいた。その瞬間、「待った、待った」と舞台に駆け上がる警察官。ヌードさんは「文芸部のお兄さんから、裸になれと命令されました。私は絶対に嫌だったんですけれど……」と泣き言を並べ立てる。結局、ひと晩、留置場に泊まるのであるが、こうしたハプニングが新聞のネタになり、翌日はやじ馬が集まって大入り満員になった。

 人気のヌードさんとして、ヒロセ元美がいた。「女性の線の柔らかい雰囲気を清潔に表現することが大切」が信条で、大きな羽扇を使うダンスの元祖という。ハニー・ロイもいた。「いろはに」をひっくり返した芸名だが、きれいなもち肌で人当たりもよく、誰からも好かれる人柄だった。51年に内外タイムス社が実施した「ストリッパーベスト10」では吾妻京子や伊吹マリをおさえ、堂々の1位に輝いた。

 凝った芸名もあった。ヴァイオレット式部は、誰もがご存じの平安時代中期の女性作家・歌人に由来している。伝説のジプシー・ローズの名は、植物のローズマリーから来ている。版画家の棟方志功が「ジプシー・ローズの肉体は神である」と絶賛したが、晩年は山口県防府市で酒場のマダムになったという。

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