トランプ大統領当選から揺れる米国の為替相場。“伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏は、利上げで引き締めの方針の米国と量的緩和を推し進める日本という真逆の金融政策の構図からその行く末を論じる。

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 かつて某ターミナル駅そばに事務所を開こうと、弟・故幸夫と一緒に部屋を見にいったことがある。

 隣の部屋が易者だったので「金融は信用が商売だから、堅い雰囲気の環境がいいんだよな~」と躊躇(ちゅうちょ)した私に、幸夫が言った。

「いいじゃない、お兄ちゃんの為替予想もどうせ『当たるも八卦、当たらぬも八卦』なんだから」。違う、一応理論づけをした上で円安ドル高を予想している!

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 米連邦準備制度理事会(FRB)が5月の連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利のフェデラルファンド(FF)の誘導目標を0.75~1%に維持すると決めた。

 予想通りの決定だ。マーケットは6月と9月の年内2回の利上げを予想し、12月にはFRBのバランスシート(BS)縮小開始とみているようだ。縮小は金融市場に滞留する資金を吸収するねらいで行われ、長期金利押し上げ要因となる。

 さらに、FOMCは来年と再来年に3回ずつの利上げを自身で予想している。

 一方で、日本銀行は量的緩和からの出口の検討さえ、「時期尚早」とのスタンス。量的緩和をさらに続ける気配だ。日米の金融政策が真逆となる状態は、今後数年間続く。強烈な円安ドル高要因になる。

 米国経済は完全雇用状態で、株価は史上最高値、不動産価格も堅調だ。資産価格上昇で狂乱経済を招いた日本のバブル期(1986~91年)に似ている。ひょっとすると、市場の予想以上に、金融引き締めを急ぐかもしれない。

 FRBといえども、今回は利上げの最大幅が限られる。早めの利上げでインフレ加速を防ぐ必要がある。加速すると打つ手がなくなるからだ。80年前後のようにFFレートを20%近くに引き上げてインフレを抑制することは不可能だ。伝統的利上げ手法は、銀行間市場でお金がジャブジャブの状態では使えない。

 
 日銀とFRBともに、使える方法は中央銀行当座預金(=民間銀行が中央銀行に置いてある預金)への付利金利を引き上げるという新手法のみだ。この金利をたとえば2%にすれば、民間レートが2%以下になることはない。民間銀行は中央銀行に預けるだけで2%をもらえるから、2%以下の融資を実行するモチベーションがなくなるからだ。

 問題は、付利金利を引き上げればFRBの支出が増えること。FRBの保有債券の利回りは3%強だと言われ、受取利息はそれほど多くない。支払金利を増やせばFRBはいずれ損を垂れ流すことになり、債務超過に陥ってしまうのだ。

 一方の日銀は、時期が来れば「出口の検討」を開始すると言うものの、出口はない。保有国債の平均利回りは0.332%(2016年度上期)とFRBよりはるかに低い。当座預金への付利金利を上げると、たちまち損を垂れ流す。

 FRBは、12月と見込まれるBS縮小に慎重だ。国債の年間発行額の10%程度を買うFRBが売り手に回れば、市場が大混乱に陥るかもしれない。10%のFRBですら慎重姿勢ならば、年間発行額の80%を買う日銀が売却できるわけがない。

 苦労しながらも引き締めにカジを取りはじめたFRBと、引き締め方法がなく緩和をさらに継続せざるをえない日銀。日米金利差はますます開くから、「当たるも八卦、当たらぬも八卦」の私の為替予想は、かなりのドル高円安になる。

週刊朝日  2017年5月26日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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