買収を主導したのは、日本郵政前社長の西室泰三・元東芝社長。15年の買収時の会見で「うまくいかない場合は、潔く私ども経営陣としては失敗を認め、それなりの対応をさせて頂くつもり、覚悟であります」と述べていた。企業買収の経験に関する質問に対しては、東芝による米原発大手ウェスチングハウス(WH)買収を挙げ、「私自身、(東芝の)社長のころからウェスチングハウスの買収が、宿願でありました。いろんなハードルがありましたけれど、克服してやったというのが一番大きな経験です」と語っていた。

 06年にWHを買った東芝はどうなったか。15、16年度でWH関連で1兆円近い損失が見込まれ、今や解体の危機。買収を具体的に進めたのは当時の西田厚聡社長らで、西室氏だけが悪いわけではないが、経営判断が問われる。旧東京銀行出身で経済学者の菊池英博氏は経営陣の知識不足と無責任体制が背景にあるという。

「買収案件を提案するのは欧米の限られた投資銀行。お金があり、海外に投資したがる日本企業は、いいカモだと思われている。経営トップが判断ミスをしても責任を取って辞めないため、失敗が繰り返される」

 金融や企業買収に詳しい真壁昭夫・法政大大学院教授は、企業を買収すれば手っ取り早く成長できるとの考え方に警鐘を鳴らす。

「国内市場が縮小するなか、海外へ活路を見いだす企業は多い。成功することもあるが、買う企業の情報を正確に把握するのは難しい。企業はやはり、時間をかけてでも自前で事業や技術を育てる努力が必要だ」

週刊朝日  2017年5月26日号