大黒湯に描かれた富士山と初音ミクと歌舞伎(左から)
大黒湯に描かれた富士山と初音ミクと歌舞伎(左から)

 東京の下町にある銭湯に入ると、そこには初音ミクがいた! ゴールデンウイーク明け、記者はよく利用する東京・墨田区にある銭湯「大黒湯」に行った。脱衣所で服を脱ぎ、さぁ湯船と扉を開けところ、目の前の巨大ペンキ絵が、見慣れない構図に変化していたのだ。

 いつも目にしていた富士山は真っ赤に染まり、手前にはどこかで見たことある緑色の髪の女の子、隣には歌舞伎役者が描かれている。なんじゃこれ?とふと左下に目を向けると、「超歌舞伎 supported by NTT」とあった。創業68年の老舗銭湯に描かれたこのペンキ絵は、4月29、30日に開催された「ニコニコ超会議」のイベントの一つ「超歌舞伎」の巨大広告だったのである。

 超歌舞伎は、歌舞伎役者の中村獅童とヴァーチャルシンガーの初音ミクが共演する斬新な演目で、昨年も同イベント内で共演している。高い評価を受け、「デジタル・コンテンツ・オブ・ザ・イヤー」(一般社団法人デジタルメディア協会主催)の大賞に選ばれた。

 受付があるスペースには、昨年の超歌舞伎の写真が数点飾られ、銭湯内にはペンキ絵だけでなく、初音ミクのフィギュアが数体置かれていた。常連客と思しきお爺ちゃんが、「この人形は一体なんなのか」と目を凝らし、初音ミクのフィギュアに顔を近づけている姿はなかなかシュールだった。

 このキャンペーンを仕掛けたのは、超歌舞伎を技術支援しているNTT。担当者に銭湯のペンキ湯で宣伝するに至った理由を聞いた。

「超歌舞伎のコンセプトが、伝統文化とNTTが持つ技術のコラボ。宣伝するにあたって、日本独自である銭湯文化であれば、意外性があり、話題性になるということで選びました」

 大黒湯の店主である新保卓也さんは笑顔でこう語った。

「キャンペーンのお話を聞いた時、面白いと思い、快諾しました。ペンキ絵を全面的に描き変えて、広告の様に使ったのは初めての試みです」

 大黒湯で定期的に描き、日本に3人しかいない銭湯絵師の中島盛夫さんが、4月17日に特製ペンキ絵を描いた。縦約5メートル、横10メートルと巨大サイズで、湯船に浸かりながら見上げる初音ミクは圧巻だ。特製ペンキ絵を見たさに利用客が増えたようで、大黒湯に置かれている訪問者ノートには初音ミクのファンが描いた絵がたくさん残っていた。

「初音ミクさんのファンが、この週間で大勢、訪れてくれました。銭湯の数はすごく減っていますが、初音ミクさんのファンの若い人などに銭湯の良さを知ってもらえたと思います」(新保さん)

 NTT側や超歌舞伎にとっても宣伝でき、銭湯文化にも目を向けてもらえ、まさに「三方よし」だ。

 既に今年の超歌舞伎は終わっているが、大黒湯で描かれたペンキ絵は、5月14日まで見ることができる。大黒湯は13日(土曜)は14時から24時まで、14日(日曜)は13時から24時まで営業する。(本誌・大塚淳史)

【大黒湯=東京都墨田区横川3-12-14 最寄り駅は東京メトロ「押上駅」、JR総武線「錦糸町駅」など】

※週刊朝日オンライン限定記事