ジャーナリストの田原総一朗氏は、スキャンダルや失言まみれになっている自民党のたるみきった現状を嘆く。

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 北朝鮮が、朝鮮人民軍の創建85周年にあたる4月25日に核実験か大陸間弾道ミサイルの発射を敢行するのではないか、という予測が強まっていたが、実行されなかった。

 だが、北朝鮮が今後、こうした挑発的な国威発揚の行為を敢行する恐れは極めて大きい。トランプ大統領は、北朝鮮が核を放棄しない限り武力攻撃を含めたあらゆる手段をとるのにちゅうちょしないと言い切り、金正恩朝鮮労働党委員長は、「核には核で対抗する」と強気一点張りで臨んでいる。米朝間はいつ武力衝突が起きてもおかしくない緊張状態にあり、そうなれば日本も攻撃を受ける危険性が大いにある。

 それなのに、安倍政権の大臣や政務官などの相次ぐスキャンダルや信じられないような失言の連発は、いったいどういうことなのか。

 まず、武藤貴也氏が金銭トラブルなどで2015年8月に自民党を離党した。宮崎謙介氏は「育休をとる」と表明した後に不倫が発覚して、16年2月に議員を辞職した。3人目は務台俊介氏で、被災地を視察するときに長靴を持参せず、政府職員におんぶをさせて「長靴業界がもうかった」と発言。17年3月に内閣府政務官兼復興政務官を辞任した。そして4人目が中川俊直氏である。不倫問題を週刊誌に書きたてられ、4月に経済産業政務官を辞任して、自民党を離党した。いずれも当選2回の衆院議員である。

 いずれも弁解の余地がない「たるみ」であり、国民に選ばれた政治家という認識すらないのではないか。第2次安倍政権の誕生以来、衆院選、2回の参院選と、いずれも大勝しているための慢心なのか。

 だが、「たるんでいる」のは2回生だけではない。問題の「共謀罪」の担当大臣である金田勝年法相は、具体的な問題になると官僚に答弁させることが多く、たまらず安倍首相が助けに出ることもある。それでいて、安倍首相と異なる答弁をして、野党の格好の攻撃の的となっている。稲田朋美防衛相は、森友学園問題で訴訟への関与を全面否定したが、翌日に「記憶違い」だとあっさり訂正した。被災地への無神経な失言が続いた今村雅弘復興相は辞任せざるを得なくなった。山本幸三地方創生相や古屋圭司選対委員長にも、常識外れの失言があった。

 
 このタガの外れ方は、どういうことか。かつては、政治記者の多くが野党にはほとんど関心を持たず、もっぱら自民党の主流派と反主流派・非主流派の対決に取材のエネルギーを注いだ。それがドラマチックで、そのことで世の中が変わったからである。議員らは首相や執行部の批判も自由にできて、その意味で自民党は野党にない緊張感に満ちており、誰もが自分の発言に責任を持っていた。党内から批判や反応があるからだ。今のように閣僚らの失態が相次げば、たちまち党内から「安倍降ろし」の声が巻き起こっただろう。

 その意味で、自民党は自由で民主的な政党だった。だが選挙制度が変わったこともあり、自民党には反主流派も非主流派もなくなり、誰もが安倍首相のイエスマンになった。アイデアも意見も出さず、安保関連法案でも共謀罪でも党内の論争がない。たるみ切っているのである。こういうときには野党が頑張らなくてはならないのだが、野党にはその気力もエネルギーもない。国民はその憤りを、どこにどのようにぶつければよいのだろうか。

週刊朝日 2017年5月19日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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