後列右が福永健さん。左隣が後継者の福永成一さん。前列右が磯貝隆さん、左が山崎誠さん(撮影/写真部・長谷川唯)
後列右が福永健さん。左隣が後継者の福永成一さん。前列右が磯貝隆さん、左が山崎誠さん(撮影/写真部・長谷川唯)
修理はワープロに似た電子タイプライターが多い(撮影/写真部・長谷川唯)
修理はワープロに似た電子タイプライターが多い(撮影/写真部・長谷川唯)
倉庫にはオリバー社製のものなど希少な機種も(撮影/写真部・長谷川唯)
倉庫にはオリバー社製のものなど希少な機種も(撮影/写真部・長谷川唯)

 1867年に米国で生まれたタイプライターは、今や生産台数もメーカーも限られている。しかし、活躍中の機器が存在する限り、修理の需要はある。東京・神田の低層雑居ビルが並ぶ一角にある「ひかり事務機」は、タイプライターの修理と中古品を扱う数少ない会社の一つだ。

「このあたり、昔は事務機器屋や文具屋でにぎわっていたんですよね。丸の内の会社はもちろん、連合国軍総司令部(GHQ)やアメリカ大使館にも出入りしていました」

 代表の福永健さん(86)は言う。タイプライター一筋の老舗で、創業52年。全盛期は横浜に支店もあったというが、今は社員5人。蛍光灯の下、事務机が並び、キーを叩く音、ローラーの戻る音などがリズミカルに響いていた。

 今や文書作成機能は、ワープロを経て、パソコンに取って代わられた。ここで修理されるタイプライターは、どこでどのように使われているのだろうか。

「宅配便の送り状のようなカーボンを使った用紙への印字に適しています。最新のインクジェットプリンターでは複写紙には印字できません。宝石店の値札のような小さな紙にピンポイントで印字するのもタイプライターでないとできないでしょう」(福永さん)

 紙に文字を「打つ」という機能によって、まだビジネスの場でも役割はあるのだという。

 また、こんなケースもあった。高度経済成長期に丸の内でタイピストをしていた女性が「昔使っていたタイプライターを直してもらえないか」と同社に頼んできた。メーカーに問い合わせても修理はできないと言われたそうだ。

 時代とともに競合他社は消え、修理に関して同社は都内でほぼ独占の状態。修理用の交換部品をストックしてあるのも同社の強みだ。たまった埃(ほこり)をとり、丁寧に錆(さび)をふきとりながら、キーの戻りが悪い、ローラーが動かないなどの原因を探る。

「長年やっていると、故障のポイントはわかるものです」(社員の磯貝隆さん)

 修理を依頼した女性は、病気のリハビリにタイプライターを使うという。

「修理できたときはすごく喜んでもらえた。こちらもうれしいですよね」(福永さん)

 倉庫にはクラシックなタイプライターがそろう。120年以上前に生産された米国オリバー社製の、鳥が羽を広げたように左右対称に、印字のハンマーが並んだ珍しい機種もあった。

「毎月数台ですが、文章を書くのにタイプライターが欲しいと個人で購入されていく人もいます」(同)

週刊朝日  2017年5月5-12日号