漫画家&TVウォッチャーのカトリーヌあやこ氏は、「母になる」(日本テレビ系 水曜22:00~)に出演する俳優らのセリフに疑問を呈する。

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 3歳の時に誘拐された息子が、9年の歳月を経て突然、母・結衣(沢尻エリカ)の前に現れる。失われた時間を取り戻し、彼女は本当の「母」になれるのか。

 母子の絆をテーマにしたこのドラマ、1話ではまだ幸せだった日々が回想される。ママの手作りアップリケ、名前付きのパーカー(「間違えて「KOU」が「KUO」になってる、うっかりエリカママ)。はしゃぐ息子・広(こう・吉武歓)くん、可愛い顔してますな……と思った瞬間。

「ママガ作ッテクレタコレ、ボクノ名前ダヨネー」。今、お経が聞こえた気がしたけど、気のせいか。「ごめーん、間違えちゃった」とスペルミスを詫びるママに、広くん再び読経。

「エエー、ショウガナイナモウ、イイヨイイヨ」。ママの頭をポンポンする手の動き、一瞬、木魚叩いてるのかと思ったくらい。なんでしょう、このすがすがしいまでの棒読みっぷり。

 空前の子役ブームな今日この頃、寺田心みたいなえげつないほどの「ボク可愛い子役でしゅ」的プロフェッショナル子役を見慣れた目に、新鮮すぎる広くんだ。

 
 ドラマの肝と思われるセリフの場面。「あのねーママ知ってるー? その人のことを思うとね、心がギューッとなってキューンとなって、泣きそうになるのー」

 だいたい3歳の子供がてめぇの心情をいちいちポエムで語るかよって、普通だったら「ケッ」てなるところも、一本調子に気をとられてそれどころじゃない。「そういう気持ち、なんて言うか知ってるー? ぼく知ってるよー。いとしいって言うんだよー。いとしいだよー」。耳の中で「いとしいだよー」が、いまだこだまするうちに誘拐された。

 待って、まだ聞いていたいのに、その棒読み。息子を想い、エリカママ渾身の号泣演技だ。くしゃくしゃに歪めた顔に、息子の寝顔がカットインする。そのまぶたピクピク、鼻ヒクヒク。狸寝入りモロバレだよ、広くん。むしろ、これが素の子供のリアリズム?

 そして9年後、成長した姿で現れた広くん、ここからはジャニーズの道枝駿佑が演じる。母との感動の再会、彼は胸を手で押さえ語りだした。「コノヘンガ、ギューッテ言ウカ、キューッテ感ジデー」。なんだこれ、キャスティングの決め手は棒読みかい? これならエリカママも一発で、息子を認識できるはず。

週刊朝日  2017年5月5-12日号

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カトリーヌあやこ

カトリーヌあやこ

カトリーヌあやこ/漫画家&TVウォッチャー。「週刊ザテレビジョン」でイラストコラム「すちゃらかTV!」を連載中。著書にフィギュアスケートルポ漫画「フィギュアおばかさん」(新書館)など。

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