19日の衆院法務委員会で「共謀罪」法案の実質審議が始まった。安倍政権はテロ対策を強調しているが、実際にどうやってテロリストを見つけ出そうとしているのか。ジャーナリストの田原総一朗氏は、安倍政権の説得力のなさを指摘する。

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 新しい法案に対して、通常は国会での審議が進むにつれて、法案の輪郭が明確になり、内容が具体的になるものだ。

 だが、「共謀罪」は国会審議が進むと、どんどん適用範囲が広がり、曖昧度が高まっている。

 たとえば民進党の山尾志桜里衆院議員が、「保安林区域内のキノコなどを無許可で採ると組織的犯罪集団の資金を得るためだとして共謀罪の対象になるのか」と問うたのに対して、金田勝年法相は「対象になり得る」と答えた。

 また、山尾氏が、墳墓発掘死体損壊なども対象になるのか、と問うたのに対しても、法務官僚は「対象犯罪になる」と答えた。

 さらに、同じ民進党の枝野幸男衆院議員が「著作権法違反も『共謀罪』の対象になるとしている、ということは、ヤマハやカワイなどの音楽教室が著作権料金を払わないと『共謀罪』の対象になるのか」と問うたのに対しても、答えらしい答えはなく、枝野氏は怒って退席した。

 安倍首相は、今回の法案の対象は「組織的犯罪集団に限っていて、一般の人には関係ない」と繰り返し説明しているが、この説明には説得力がない。

 なぜならば、テロを敢行する人間たちは、テロリストというバッジをつけているわけではない。一般人のふりをして、一般人の中に潜り込んでいるのである。そうしたテロリストたちを、テロを敢行する前に、警察はどうやって見つけ出すのか。政府は、仲間内の密告を奨励すると言っているが、密告の例など限られている。

 本気でテロリストたちを見つけ出そうとすれば、一般人のプライバシーに手をつけざるを得なくなるのではないか。米国や欧州の国々では、盗聴も行われているはずである。

 
 政府は、一般人のプライバシーを侵すことはしない、盗聴も行わない、と強調しているが、私のように戦前を知っている世代の人間は、政府の主張は信用できない。

 1925(大正14)年に、治安維持法が施行された。この法律を施行するときに、政府は、国体をぶち壊そうとしている共産主義者らを取り締まるのであって、一般の国民は関係ない、国民には一切迷惑はかからないと言い切っていた。

 ところが、その後に2度の法改正があって、適用対象が拡大され、政府の方策にいささかでも批判的な国民は、限りなく取り締まりの対象になった。大正リベラリズムは完全に消滅してしまったのである。

 その後、満州事変、日中戦争がはじまると、戦争をいささかでも批判すると警察に逮捕された。拷問されて生命を失った人間も少なくない。 治安維持法が改正されたように、共謀罪も将来改正される可能性がある。いや、現在のかたちでも非常に危ない。

 現に、安倍首相は今回の「テロ等準備罪」は、従来の「共謀罪」とはまったく別物だと力説していたが、金田法相は4月19日に「基本的な考え方は異なるものではない」と表明した。

 そして、「組織的な業務妨害罪にあたる」と警察が判断すれば、反原発デモや、辺野古での反基地運動も取り締まりの対象になる危険性が十分にある。そのことを相談しただけでも取り締まりの対象となりかねない。そのことを、国民はもっと認識すべきである。

週刊朝日  2017年5月5-12日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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