トランプ大統領当選から揺れる米国の為替相場。“伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏は、FRBの保有資産縮小によるマーケットへの影響を論じる。

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 私が所属する参議院財政金融委員会では、麻生太郎財務大臣との論戦が多くなる。先日の委員会後、他党の議員からこう言われた。

「麻生財務大臣と藤巻さんとの議論は、ハブとマングースの戦いみたいだ」

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 4月5日公表の米連邦公開市場委員会(FOMC)の3月分の議事要旨によると、米連邦準備制度理事会(FRB)は年内に保有資産縮小に踏み切るそうだ。

 2014年以降、保有資産額をこれ以上増やさずに金融緩和の加速をやめるテーパリングを始めた。資産額を減らせば、金融正常化が第2段階に入る。

 資産縮小は来年から、とマーケットではみられていた。かなりの前倒しだが、景気過熱を心配し始めたのだろう。FRBの見込む年内2回の利上げとともに、資産も縮小すれば、マーケットへの影響は大きくなる。

 一方で、日銀は相変わらず保有残高を年80兆円目途で増やすよう、長期国債を買い続けている。日本の長期金利は0%近辺で低位安定し、日米の長期金利差はひとえに米国の長期金利に連動する。金利差の影響を大きく受ける為替相場は今や、米国債金利に驚くほど連動している。米長期金利が上がるとドル高円安、下がるとドル安円高だ。

 FRBが利上げを予想する政策金利は短期金利。短期金利が上がれば、長期金利もつられて上がるのが一般的だ。マーケットが今年あと2回の政策金利上げを織り込んでいたとしても、年内の資産縮小までは織り込んでいなかったはずだ。

 資産縮小は長期金利に影響する。FRBが長期国債の購入を減らせば需要減退となり、価格が下がる(金利は上昇)。FRBが長期金利に直接的・間接的に影響力を行使することになり、今年後半はドル高円安がかなり進む、と私は思う。

 デフレ圧力が緩んだ欧州中央銀行(ECB)も、緩和の出口を探り始めている。

 
 問題は、日本銀行だ。資産規模縮小どころか、第1段階のテーパリングさえも実行できない。国債市場で、日銀は余りにも存在が大きくなりすぎた。FRB、ECB、BOE(英国中央銀行)の比ではない。

 日銀が国債購入をやめてテーパリングを始めれば、長期国債は急落する。FRBのように売りにまわるとなれば、国債価格は大暴落(金利暴騰)のはずだ。

 16年、米国債は2兆1680億ドル発行され、FRBが約1割の2040億ドル分を購入した。日本では現在、売りに出される国債約150兆円のうち、日銀が8割の120兆円を買っている。1割分の国債購入を減らすFRBでさえ、国債市場への影響を抑えるために満期を待ちながら資産規模を減らすという。8割の日銀は、金融緩和の出口をどう探るのだろうか?

 日本でもテーパリングを始める際、金融緩和をやめると主張する日銀と、「政府の資金繰り倒産回避のために続けろ」という政府の間でバトルが始まるだろう。これまでに、このコラムでそう書いてきた。加えて、日銀が保有国債を売り出す、などと言いだしたら、政府とのバトルはより激しくなる。まさに、「ハブとマングースの戦い」だ。

 国会の論戦が森友学園問題に集中している間にも、日本の財政問題は一段と深刻化している。

週刊朝日  2017年4月28日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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