フェンディのカーディガン、クリスチャン・ディオールの下着、エルメスの手袋。華やかなブランド名が日記の中で飛び交う。

「一般的に勾留されている被告の生活、つまり現実とは違う空間で呼吸をして、生きている印象です」(岩井さん)

 なぜ良きにつけあしきにつけ、木嶋被告の周りに人が絶えず、金銭的な支援も途絶えないのか。作家で比較文学者の小谷野敦さんは、こう解説する。

「木嶋被告が15年に出した自伝的小説、『礼讃』を読みました。彼女の文章からは、通俗的な教養がにじむ。あくまで事件とは切り離した評価ですが、あれほどの分量を書ける人はなかなかいないのは確かです」

 木嶋被告の周りには、男性の影が絶えない。

「そもそも、女は外見でモテるわけではない。性的な営みに長(た)けている、言葉に長けている、教養もある」(小谷野さん)

 それで十分なのだという。

「平成の毒婦」「婚活詐欺女」「練炭女」……。木嶋佳苗とは何者だったのか。

 木嶋被告が事件を起こした00年代後半は、男性を手玉に取って自分のステータスを上げる生き方はやや古く、女性が自分で人生を切り拓く時代。木嶋被告は、男女平等を目指す社会で、あえて女であることを強調した時代錯誤的な生き方をした、と香山さんは見る。

「ただ、仕事を持ってがんばってきても、男性社会でくじけた女性も多かった。犯罪は許されることではないことが前提ですが、女を最大限に利用したほうが『正解では?』という逆説的なメッセージを送った存在。それが、木嶋佳苗だったのかもしれません」

 木嶋被告から「なぜ私を取材しないの」とブログで関心を寄せられたジャーナリストの青木理さんは距離を置く。

「僕自身、木嶋被告にあまり関心がありません。ただ、冤罪を訴えながら『早期執行を望む』などと死刑制度のありようにも影響しかねない文章を公にするのは、最後まで軽率な人物という印象です」

 判決が出た当日も木嶋被告は、「捜査機関や報道機関の情報で遺族は私に殺されたと思っている」「遺族の方だけにはきちんと説明したい」と、自身の「正義」を主張している。この木嶋被告の一連のメッセージを遺族は複雑な思いで見つめているに違いない。

週刊朝日  2017年4月28日号