──監督が故郷を見直すようになったきっかけは?

錦織:18歳で島根を出た僕もそうですが、地方の人は幻想というか、テレビなどの情報をストレートに受け止め、勘違いしがちです。夢や希望や自然の豊かさが足元にあるのに、中央発信の情報が刺激的で、それに気づきにくい。インターネットの普及で情報が混乱、複雑化している中でちゃんと取材をして撮ろうと考えました。すると思っていたこととは逆の場合が多かったんです。地元の人たちは心豊かに暮らしていたんです。「白い船」を撮って、この日本のローカルの豊かさは世界に向けて発信できると確信を持ちました。

HIRO:僕も島根に行くようになって、東京では味わえない刺激をもらっています。自然や文化だけでなく、人の優しさ、子どもたちの顔の輝き、おいしい食べ物。EXILEと「たたら侍」の世界観はかけ離れているという印象を持つ人もいるかもしれませんが、根底にある日本文化や日本人の誇りを世界へ発信していく気持ちは一緒です。

溝口:HIROさんのような流行の最先端のクリエーターの方が島根に関心を持っていただくこと自体、奇跡的だと思っています。

HIRO:僕らとしては映画の宣伝というよりも、島根全体を盛り上げたい気持ちが一番強いんです。町もきれいですし、自然もいっぱいある。空港に降りたときから、リラックスできている感じがします。住めるなら住みたいですね、本当に。出雲大社などの観光地も魅力的ですが、静寂の価値にも気づきました。音が何もしない世界があるというのは神秘的ですよね。

錦織:映画の撮影現場を探しているとき、どこからか話し声が聞こえる。どこで話しているのかと思ったら、2キロ先のおばちゃんたちの立ち話だった、ということがありました。安心・安全・環境というのはただではないと言われますが、島根はそれが普通にあります。犯罪件数は全国最下位。若い人たちの移住も全国でベスト5に入っています。

溝口:若い方々が子どもを育てるとき、安全なところでということで移住する人が増えています。もう一つは食の安全性。自然で取れたもので育てたいという気持ちもあるようです。人々が互いに知り合っていて、寛容性があるというか大人が他人を悪く言うことをあまりしないから、子どもも伸び伸び育っている。

HIRO:子どもを育てるには絶対いい環境ですよね。

溝口:地域の人たちがよりよく暮らすための知恵もあるでしょう。争うと両方が良くないという考え方がね。

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