ロシアは昨年の米大統領選挙に干渉、トランプ氏の当選を謀った疑いが濃厚で、トランプ政権下で米ロ関係は改善されると予測されていた。

 だが、米ロ関係は逆回りを始めた。シリア上空で米ロ両軍の安全を確保するための合意の効力が停止され、両国間の飛行計画などの情報交換はもはや行われない。両軍の偶発的な衝突の恐れさえ懸念される事態に陥った。

 政権発足直後から混乱が続くトランプ政権。スティーブン・バノン首席戦略官を国家安全保障会議(NSC)の常任メンバーから外し、H・R・マクマスター補佐官(中将)がNSCをリードすることになり、今後は軍人中心の安保戦略となる。他方、国務省は脇役に追いやられ、予算も30%以上の削減が予想される。そんな政権では外交の立て直しは無理で、ニクソン並みの策略をまねることなどできないだろう。

 日本の安全保障にとって重要なのは、こうしたトランプ流策略が北朝鮮に対して効果があるかどうかだ。

 トランプ大統領は安倍首相との電話会談で「すべての選択肢がテーブルの上にある」、さらに「最大限の軍事力」を活用する、とも述べた。だが北朝鮮の核・ミサイル開発を阻止するには言葉ではなく、具体的な作戦が必要になる。

 これまで米韓両国は数件の対北朝鮮軍事作戦計画を策定してきた。朝鮮人民軍の侵攻を防止する作戦計画5027(OPLAN5027)や北朝鮮の崩壊に備えたOPLAN5029では現状に対応できなくなり、15年にはOPLAN5015を作成した。

 現在実施中の米韓合同演習「フォールイーグル」はOPLAN5015の実地訓練を行っている。その中に探知・攪乱(かくらん)・破壊・防衛の4Dからなる新しい先制軍事作戦が含まれる。特殊部隊がその任務を負い、先制攻撃用の戦略兵器を運用しているといわれる。

 米軍が先制攻撃を加えた場合、北朝鮮は軍事境界線の北側に配備した長距離砲を一斉に発射し、ソウルを「火の海」にしようとするだろう。北朝鮮の反撃を抑止する重厚な作戦計画は果たして可能だろうか。

週刊朝日 2017月4月21日号