トランプ米大統領 (c)朝日新聞社
トランプ米大統領 (c)朝日新聞社

 予測だにできなかったアメリカのシリア攻撃は、政権発足直後から混乱が続き、新大統領として史上最低の支持率で低迷するトランプ氏の危険な外交安保戦略を垣間見ることとなった。米ロの関係はどうなるのか。「狂気の戦略」の矛先は、北朝鮮にも向けられるのか。そのとき日本は──。国際ジャーナリストの春名幹男氏がレポートする。

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アメリカには「狂気の戦略」(Madman theory)という策略がある。直訳すれば狂人の理論だが、ここではわかりやすく、狂気の戦略としておきたい。

 この策略の元祖はリチャード・ニクソン大統領(1969~74年在任)だ。ドナルド・トランプ大統領はニクソンが考え出したこの策略を応用して、シリアを59発の巡航ミサイルで攻撃したと筆者はみている。

 昨年のトランプ大統領当選後、ワシントン・ポスト紙の保守系コラムニスト、チャールズ・クラウトハマー氏ら一部の識者が新大統領はこの策略を採用すると予想していた。

「狂気の戦略」とはいかなる策略か。

 筆者の畏友(いゆう)で秘密文書発掘の達人、民間調査機関「国家安全保障文書館」のウィリアム・バー上級アナリストと、ジェフリー・キンボール・マイアミ大学名誉教授の共著書『ニクソンの核の妖怪』(2015年、カンザス大学出版会)に詳しく紹介されている。

 ニクソンは1968年の大統領選挙中、信頼する相談役で、大統領就任後に首席補佐官に任命したH・R・ハルデマン氏にこう言ったという。冒頭の「彼ら」は当時のソ連や北ベトナムなど「敵」のことを指している。

「彼らは、ニクソンのことだからニクソンが行使する軍事力の脅威を信用するだろう。……それを私は狂気の戦略と呼んでいる。私は、私がある段階に達したら、戦争を終わらせるためにいかなることでもするかもしれない、と北ベトナムに信じてもらいたい。

 われわれはそうしたことを彼らにこっそり知らせておきたいんだ。『大変だ、ニクソンは共産主義に取り憑かれている。彼が怒ったら抑えられなくなる。彼はその手を核のボタンに掛けている』とね。そうすれば、ホー・チ・ミン(北ベトナム主席)は平和を乞うために2日以内にパリに来るだろう」

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