倍:この映画がいまの日本に教えてくれることはたくさんあると思う。先日もね、東北のある会合で地元の人と話したんだけど「いろんな考えの人同士がぶつかっちゃって、何もできないんです」って言うの。悲しいことだなって思った。

石:震災から6年たって、いろんな状況や問題がありますからね。

倍:私はね、人間同士なんだからとことんぶつかって話せば絶対に伝わると思うんですよ。でもそういう感覚が、いまの日本には足りなくなってきているのかな。

石:僕も感じます。

倍:この映画を見ると、人間との付き合い方や触れ合い方の、原点を感じられるの。この村はみんな平屋暮らしで、常にお隣や地域とつながっている“横型の社会”なのね。自然に相手に手を差し伸べたり、お互いに向き合ったりできるんだと思う。日本はマンション暮らしが多くなって個々がバラバラな“縦型の社会”になっちゃって。人と向き合い、相手を思いやる気持ちが薄れてきちゃっているような気がするんです。

石:彼らの生き方が、同じ体験をした僕らを励ましてくれることが必ずあると思うんです。ただね、ネパールでもいろいろあります。欧米から支援に来ているんですけど、彼らは表向きは現地の人々を尊重はしているけれど、心底リスペクトをしているようには見えなかった。「助けてあげてる」って感じ。僕はこの村で被災者に対する気持ちが変わった。村の人たちの心はなんて素晴らしいんだ!って。

倍:そうなのね。

石:いま東北のあちこちで上映会をやっていて、倍賞さんにも来ていただいてるんですが、毎回すごい反響なんですよ。「ネパールの彼らもがんばってるんだ」「勇気づけられた」って。

倍:被災地の人だけでなく、誰もがこれを見ると元気づけられ、「いまの状況じゃ、いけないな」って思うんじゃないかな。

石:僕ら日本人は物質的には豊か。家や車、携帯電話、いろんなモノを持っている。ネパールの彼らには、もともと何にもないんですよ。地震で家すらもなくなっちゃった。それでもアシュバドルや彼の家族たちは、とても幸せそうに見えますよね。

倍:そうね。

石:なぜ彼らはあんなに何もないのに幸せなんだろう? この映画から、それを多くの人に考えてほしいなと思うんです。

倍:それは「希望」でもあるよね。希望の村の人たちなんだね、彼らは。

週刊朝日 2017年4月7日号