石:彼はね、僕がキャンプで夜中トイレに起きると、必ず起きてくるんです。用を足した後にお尻を水で洗うんですが、彼はそのためにトイレの扉からペットボトルを渡してくれる。

倍:へええ。

石:真夜中の星空を三脚を立ててじっと撮影してると、隣でレンズを持って立っててくれた。でもね、ときどき「べろーん」ってレンズをなめてふざけてる(笑)。

倍:あははは。牛みたい。

石:僕はこれまでに60カ国以上を訪れています。景色のいい場所はたくさんあったけれど、このラプラック村は特別でした。そこに暮らす人々が美しくて、本当に素晴らしかった。

倍:地震直後、村はどんな状況だったの?

石:人も大勢亡くなっているから、もちろん重い雰囲気もあったし、泣いている人もいました。でもね、基本的になんだか明るいんですよ。子どもたちがサッカーをしていて、アシュバドルが笑って近づいてきてくれた。最初は不思議だったけど、取材を進めるうちわかってきたんです。やっぱり彼らの持つ「信仰」にあるのかなと。彼らは仏教より古い「ボン教」を信仰しています。

倍:死者とのお別れの儀式が印象的でした。

石:普段は明るい人も儀式で「ワーッ!」と泣いて、「これでお別れができた」って。倍賞さんの子ども時代にこういうお葬式ってありませんでした?

倍:あった。私は疎開で茨城県にいたんだけど、親戚のおじさんが亡くなって、お葬式のことを「じゃんぼん」っていうんだけど、竹に七夕様のように短冊をつけて川に流すんだよね。そのときに割と陽気に歌を歌うのよね。

石:似ていますね。村でもこの儀式でパッと泣いた後、みんなで陽気に楽しんで元気づける。

倍:儀式でのダンスのシーンもすごかったよね。

石:あれ不思議なんですよ。導師(グル)が呪文を唱えて歌いだすと、女の子たちが踊りだす。彼女たちは一度も踊りを練習したことはないし、三日三晩踊り続けるなんて5、6歳の女の子にできるわけがない。

倍:催眠術みたいなものなのかな。

石:やっぱりあの場所には、不思議な力が働いているんでしょうね。

倍:神様がいるのよ、きっと。

石:僕もそう思いました。人々の悲しみをすべて吸い上げてくれる存在がいる。村の長老も「だから、また明日からがんばろうと思えるんだ」と言っていました。

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