手嶋:僕は純粋の道産子です。父は戦前に九州で炭鉱を経営し、戦後、北海道の芦別で炭鉱主でした。

林:お金持ちのお坊ちゃまなんですね。

手嶋:お坊ちゃまかどうかは別にして、物心ついたころは「黒いダイヤ」の剛毅な時代でした。列車に乗って畳の上を駆けまわっている記憶があった。あるとき、母に聞いてみたら、「あれがお座敷列車だ」と教えられました。今でいうチャーター便。北海道から九州まで貸し切りで出かけていったというのです。

林:すごい……。

手嶋:その後は零落の一途をたどるわけです(笑)。大学生のときには、父はすでに亡くなり、会社もありませんでした。会社は創設するより、倒産するほうがはるかに難しい。当時はカネ余りで株式市場に投機マネーが流れ込み、額面割れの炭鉱株も値上がりしました。わが家はそれを整理してアラビア石油株に乗り換えて売り抜け、難局を切り抜けました。

林:大変だったんですね。英語は大学時代に?

手嶋:いえ、学校に通った記憶はありません。ワシントンでも聞き取れなければ堂々と聞き返した。ベーカー国務長官に「今のくだりがわからない」と言って説明してもらったことがあり、特派員仲間から「国務長官にもう一度などとよく言えるなあ」とあきれられたものです。ベーカー国務長官は自分の説明が不十分と誤解したのか、噛み砕いて解説してくれました(笑)。母語でないのですから、誰だって聞き取れなかったり、わからない単語に遭遇したりしますよ。僕らはジャーナリストですから、言葉のことよりニュースセンスが磨かれてなければなりません。

林:そういうものなんですね。

手嶋:ホワイトハウスでジョージ・W・ブッシュ大統領にインタビューしたとき、「リューイチ、君の英語は本当にわかりやすい」と言われました。当然です。構文も単語もブッシュ好みのシンプルなものですから(笑)。ブッシュ大統領は「BBCの連中のイングリッシュは大っ嫌いだ」と言っていました。BBC流の知的な英語は、二重否定で畳みかけ、底意地が悪く響いたのでしょう。ブッシュ大統領にはなじみのない副詞を織り交ぜ、ねちねちと攻め立てたのかもしれない。「それに比べて君の英語はじつにわかりやすい」と。

次のページ