作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏は、「少女像」は日韓関係の問題ではなくなっているという。

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 韓国の「少女像」を巡るニュースを目にすると、自分でも驚くのだけど、心臓が音を立てるのがわかる。日韓関係を悪化させている原因のように語られるのを、見ていられない思いになる。ロリコンに寛容な日本で、これほど嫌われる少女は珍しいんじゃないか。

「少女像」の目的を知らない人が「少女像」を批判するのだと思い、これまで機会があれば「少女像」のことを説明してきた。あれはね、1992年から毎週水曜日に、日本大使館前で謝罪と賠償を求めて声をあげた被害者たちの運動を記念してつくったものなのよ。仲間が一人また一人と亡くなるなか声をあげ続けた女性たちの闘いを記憶するためにつくられたのよ。尊い女の闘いの記憶なのよ~!と。

 ところが、そんな設置目的など、そもそもどうでもいいと思っている人のほうが多いのかもしれない。「日韓合意」どうするんですか? 大統領辞めても私たちに関係ないですけど? 10億支払い済みですけど?など、「手続き」の話を盾に「少女像」批判を深めているだけのようだ。

 また「少女像」を嫌うフェミニストが少なくないことにも、気が滅入る。日本のフェミに「少女像」は評判がよろしくないのだ。その理由は「少女像は少女だからダメ」というもの。え?と不謹慎と思いつつヘラヘラ笑ってしまうのだけど、曰く、「慰安婦」には成人女性もいた、感情移入しやすい少女をシンボルにすると、被害者は無垢であるべきというイメージが再生産されてしまう、という理屈。被害者自身が希望した「少女像」の前で、そんな議論は全く無意味だし、そもそも「慰安婦」にさせられた朝鮮人女性に10代が多かったことは、被害者の証言や資料によって歴史学者が認めていることだ(*)。とにかく、「少女像」は嫌韓感情をこじらせてる人からも、フェミニストからも、全方位的にこの国で嫌われてる。

 
 今年の3月8日、国際女性デーは、水曜日だった。この日、「今日、ドイツで少女像の除幕式があります」と発表があった。日本からの妨害を防ぐため、除幕式当日まで極秘に進められていたという。また元「慰安婦」の安点順さんが除幕式に出席されたことも伝えられた。安点順さんは、「日韓合意」後に、名前と顔を出して積極的に声をあげるようになった方だという。日本では「日韓合意」後にお金を受けとった当事者の話が多く報道されるが、安点順さんのような方もいるのだ。

 ヨーロッパ初の「少女像」。日本社会がどう騒いでも、これからも市民の手で「少女像」はいろんな土地で設置されていくだろう。なぜなら「少女像」は日韓関係の問題ではなく、女性への性暴力を根絶する闘いの意志として理解され始めているから。そのように、被害者と支援者が声をあげてきたから。その世界基準の「人権」を理解しないと、日韓関係どころか、世界からの信頼を失っていくように思う。「少女像」を叩く前に、私たちは目の前の被害者に向きあう力が必要なのだと思う。フェミニストも。

*『〈平和の少女像〉はなぜ座り続けるのか』岡本有佳・金富子責任編集(世織書房)における金富子氏、吉見義明氏の論文など

週刊朝日  2017年3月31日号

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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