山極壽一(やまぎわ・じゅいち)/専門は人類学、霊長類学。著書に『父という余分なもの―サルに探る文明の起源』『京大式 おもろい勉強法』など(撮影/工藤隆太郎)
山極壽一(やまぎわ・じゅいち)/専門は人類学、霊長類学。著書に『父という余分なもの―サルに探る文明の起源』『京大式 おもろい勉強法』など(撮影/工藤隆太郎)

「注目する学長がいる大学」のランキング(朝日新聞出版「大学ランキング2017」から)で、1位を取った山極壽一京大総長(65)が、4月に大学入学する新入生にスペシャルメッセージを送る。

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 大学への“窓”を開けた新入生のみなさん、合格おめでとう。高校の延長線上ではない世界を知り、新たな自分を大学生活で見つけてほしいと思います。

 大学はジャングルだ、と私は言っています。

 陸上で種の多様性が最も高いジャングルのように、大学もいろいろな考えや専門分野を持つ人が集まっています。多くの人との対話を通じ、自分の視点を築いてほしい。「いいね!」と共感するだけでなく、自分の頭で考えてほしい。

 そして、自分なりの問いを立ててほしい。与えられた質問に正解を出す受験勉強とは違います。大学では、問いを立てること自体が難しくも楽しい作業です。

 対話には、ディベートとダイアローグがあります。

 ディベートは自分の主張を相手に訴えて勝負する「討論」で、激しい論争のニュアンスがある。私はそれを尊重しつつも、ダイアローグをより重視します。勝ち負けはつかないが、対話を通じ、自分の意見も相手の意見も変わる。新たな意見も生まれる。それがダイアローグです。

 対話は、相手に「おもろい」(関西弁)と言わせないと成功しない。標準語の「面白い」ではありません。

 大阪出身の学生が多い京大では、「おもろい」という言葉が学内に蔓延しています。私は東京出身ですが、「面白い」は自分で感じること、「おもろい」は相手に言ってもらうことだと考えています。自分だけが面白がるのでなく、相手も感動すれば、「それ、ええやん。おもろいな」となる。相手を乗り気にさせる言説や体験談が、「おもろい」と言ってもらえるのです。

 おもろいと、「ほな、やってみなはれ」となる。俺はお前を支えるぞ、と。すると、人的、資金的な支援を得て、新しい世界に入れる。私が身を置くフィールドワークの世界も「おもろい」と思われることが重要です。

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