西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、WBC1次ラウンドにおける野球日本代表「侍ジャパン」の活躍を振り返り、その勝因分析と今後への課題を語る。

*  *  *

 WBCが開幕した。3月6日に地元ソウルで韓国がイスラエルに敗れる波乱があり、韓国は2大会連続で1次ラウンド敗退となった。

 国際大会は一発勝負。今大会は各ラウンドで2位と3位が勝利数で並んだ場合はプレーオフがある。格上のチームは3連勝での1位突破を狙うが、他のチームは「どこから2勝するか」をまず考えるだろう。その点、日本は1次ラウンドの相手となったキューバ、オーストラリア、中国という相手に恵まれたな。

 キューバにしても、相手は先発の柱と言える投手は投げてこなかった。それは2、3戦目で確実に2勝をとるためだろう。2戦目となったオーストラリアも同様。しかもオーストラリアにとっては3連戦の初戦だった。「連投したら中1日」「30球以上投げたら中1日」という制約がある以上、日本に勝ち越しを許した時点で、実力ある救援投手の起用を控えざるを得なかった。ディーブル監督も「3連戦でなかったら……」と話したが、日本というチームに対する畏怖、そして日程的な部分も、侍ジャパンには追い風となった。

 侍ジャパンの戦いを実際に見てみると、初戦のキューバ、2戦目のオーストラリア戦と中盤まで紙一重の戦いだった。国際大会は何があるかわからないし、絶対はない。ただ、苦しい試合を初戦は打線が中盤以降に爆発し、2戦目は投手陣が踏ん張った。強化試合で2勝3敗と苦しみ、不安ばかりが目立ったが、チームには自信と一体感が生まれてきていると思うよ。

 オーストラリア戦では、同点の五回1死満塁のピンチ。2番手の岡田はボールが6球続いていた。しかし、左打者が2ボールから打ってくれて二ゴロ併殺打。私が監督なら「待て」のサインを出した。投手心理を考えれば、一つストライクが取れたとしても、1球待たれたら嫌。このピンチ脱出が今後につながる好循環を生んだ。もし、岡田が押し出し四球を出していたら、WBC初登板が1死満塁の場面になっていた千賀。とても冷静には放れなかったと思う。それが六回頭からの登板になって、しっかり腕を振りMAX155キロ。切れのいいスライダーでストライクを取り、直球を見せてフォークボールで仕上げる。宮西、牧田も安定した投球だった。

 特に千賀の使い方は今後も大きなポイントになる。オーストラリア戦で落差の大きいフォークボールが抜けたケースはほとんどなかったし、2回で4三振を奪ったように、三振奪取能力が今回のメンバーの中でいちばん高い。1次ラウンドは牧田を抑えにしたが、相手チームのレベルが上がる2次ラウンド以降では、千賀を最後に使うことも選択肢に入ってくると思う。

 相手国の力量を見て、適材適所で使う。クローザーを1人に固定すべきという考えもあるが、私は救援陣の中であれば、「この日は○回」といった、その日の役割を明確にしてあげればいいと考える。どう投手の能力を最大化してあげるか。勝利の方程式をガチガチに固めるというよりは、その試合で役割を明確化してあげれば、相手も継投を読みにくくなる。

 安心して投入できる駒が揃えば、継投が後手に回ることはない。先発は石川、菅野がいい。勝つことが大前提だが、戦いながら投手陣を見極めることだ。

週刊朝日  2017年3月24日号

著者プロフィールを見る
東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

東尾修の記事一覧はこちら