ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。ネットニュースの炎上を防ぐ新たなツールを解説する。

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 ニュースを紙ではなくネットで読むことが一般的になって久しい。新聞社が提供するニュースであれば、基本的に紙でもネットでも内容は同じだが、ネットのニュースには紙にない特徴──記事に対するコメントを投稿し、読者同士や読者と記者がコミュニケーションする機能がある。

 日本の新聞社は欧米の新聞社のウェブサイトのようにコメント機能を開放しているところは少ないが、多くがコメント欄の付いている日本最大のニュースメディア「ヤフーニュース」にニュースを提供しているため、日々新聞社が配信するニュースに読者がコメントを書き込んでいる。

 本来、ニュースに付けられる読者のコメントは有意義な存在だ。コメントを読むことで、記事にはない視点がもたらされたり、記事の文脈や背景が理解できたりする。記者にとっても適切なコメントが寄せられることで記事の質を上げられるメリットは大きい。

 しかし、現状のニュースコメントはそうはなっておらず、記事で取り上げられた人やそれを配信するメディアに対する誹謗(ひぼう)中傷であふれている。メディアはコメント内容を目視で確認し、不適切なものを削除しているが、それがメディアにとって人的にも金銭的にも大きなコストとなっている。

 そんな状況に一石を投じるべく、グーグルの関連会社で社会的起業への投資事業も行っているシンクタンク「ジグゾー」が、有害なコメントを自動で見つけ出す機械学習ツール「パースペクティブ」を2月23日に発表した。

 このツールは他人への誹謗中傷や罵倒など、ニューヨーク・タイムズ紙のウェブサイトのコメント欄で消去されたものや、ウィキペディアの議論用ページで行われた100万件以上のやり取りを「有害度」の学習材料として利用。人間が目視で評価した場合との一致度は9割程度と、高い精度で有害なコメントを抜き出すことができるそうだ。

 
 既にツールを実験的に導入しているニューヨーク・タイムズは、事前に問題のあるコメントを抜き出せるようになり、人間のコメント確認速度が2倍になったということだ。

 このツールをコメント欄に導入すると、入力された文章の有害度をリアルタイムで入力欄の近くにパーセント表示できるのも面白い。ジグゾーによる実験では、入力したコメントの有害度が高いことがリアルタイムに示されると、ほとんどの人が表現を柔らかめに修正したというから驚きだ。ネット炎上を解決する一つのヒントがここにあるのかもしれない。

 現時点では有害度のみの評価を行っているパースペクティブだが、今後は記事のテーマに関係のないコメントや、事実に基づかないコメントを評価するための機械学習モデルを開発するとしている。

 炎上対策だけでなく、フェイクニュース対策や、ステルスマーケティング対策として実用的なツールになることを期待したい。

週刊朝日 2017年3月17日号

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津田大介

津田大介

津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『情報戦争を生き抜く』(朝日新書)

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