西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、野球日本代表「侍ジャパン」への不安と期待を口にする。

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 このコラムをみなさんがご覧になるのは、もうWBCが開幕するころだと思う。みなさんは侍ジャパンに対して「大丈夫?」という思いだろう。私も同じである。

 宮崎合宿中に行われた2月25日の練習試合・ソフトバンク戦は0‐2で敗れた上、28日の台湾プロ野球選抜戦も5-8で負けた。代表がWBC前の練習試合で2連敗するのは過去3大会ではなかったという。

 特に、私もテレビで見た台湾プロ野球選抜戦の内容は不安を助長させるものだった。まず、先発した則本。本大会でも先発、中継ぎ、抑えなど、キーポイントでさまざまな起用法が考えられる投手で、いわば投手陣の中でもキーマンになる存在である。その投手が新球カットボールを交えながら、3回6安打3失点だった。彼が打たれたという事実は、本人以上に周囲の投手に与える影響が大きいよ。「則本でも打たれるのか」とね。

 則本本人にとっても最終調整登板であるならば「試す」という段階は終えていなければならない。2番手の牧田も、強いボールが投げられていなかった。緩急やクイック投法からの直球も、完全に対応されていたから。こちらも何かを試したのかもしれないが、その段階は開幕の1週間前ではなく、もっと前に終えていなければならない。

 試すというよりは、使える球種かどうかの最終判断をすべきレベルに行っていなければならない。そして抑える中で投手陣全体に「いける」という雰囲気をつくっていくことも大事。昨年11月の強化試合でも4試合で計29失点した投手陣ならなおさらだ。最後の登板でこういう状況だと、投げるほうも使う側も手探りで開幕を迎えることになる。

 小久保監督は宮崎合宿を、練習試合を含めて4日間にした。その影響は本大会に入った結果で判断しなければならないから、しばらく見守っていく必要がある。

 
 ただ、小久保監督が「試合ができる体に」と話した言葉の意味を選手がどう感じていたかだ。2月23日という、過去よりも1週間遅い合宿スタートであるなら、私なら「対打者、対投手に勝負できる状態にしてきてほしい」と話したと思う。

 今回のチームは若い選手が多い。こうやれば必ず状態が上がってくるとの引き出しを持った選手は多くないだろう。ならば、結果が出ないと不安は増してしまう。まだ、打者はいい。打席数は何打席もあるし、打席を重ねるたびに修正して上がってくるだろう。投手はどうか。わずか1試合か2試合の調整登板で本大会を迎えることになる。

 1次ラウンドの相手を見渡すと、キューバ、オーストラリア、中国。はっきり言って地力を考えれば、3連勝できる相手である。ただ、国際大会は何があるかわからない。1度火が付けば一気に大量得点も入るだろうが、そこまでの間は投手が最少失点で我慢していくことが必要だ。28日の試合のように5点差以上つけられたら、逆転は難しい。

 小久保監督は決して口にはしないだろうが、ピークをあえて2次ラウンドに持っていくという考えであるならば、勇気ある決断である。選手も純粋に勝負に集中してほしい。危機感を共有するのは大会前で終わり。大会に入ったら勝つしかないのだから。

週刊朝日  2017年3月17日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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