漫画家&TVウォッチャーのカトリーヌあやこ氏は、ドラマ「カルテット」(TBS系 火曜22:00~)において、その結婚観と松たか子演じる巻真紀の恐ろしさを指摘する。

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 殺されたのかと思った夫(宮藤官九郎)は生きていて、夫が殺したのかと思った女(吉岡里帆)も生きていた。一寸先は五里霧中ドラマ。おそるべし、坂元裕二(脚本)なのだ。

 何がおそるべしって、その結婚観。「結婚すると女は男のダメな所を許し始め、男は女のダメな所を探し始める」。これは同じ坂元脚本のドラマ「最高の離婚」のセリフだが、「カルテット」に出てくる真紀(松たか子)と、その失踪した夫・幹生(宮藤)の関係にもそのまま当てはまる。

 家族になりたかった妻。恋人のようにドキドキしたい夫。何も聞かずに唐揚げにレモンをかけてしまう妻。

「人生ベスト1の映画」を一緒に見たら、共感してもらえなくてガッカリする夫。カフェに行こうと誘う夫に、コーヒーなら家にあるよと言う妻。夫が大好きな詩集を9ページしか読まない妻。そのうえ詩集を鍋敷きにしちゃう妻。ガサツか。女はガサツって話か。

 
 ずっと継続していく普通(生活)を望む妻と、永遠に続きはしない特別(ときめき)を求める夫。近くにいても、二人の溝は決して埋まらない。前クール同じ枠だった「逃げるは恥だが役に立つ」で結婚ドリームに首までつかった皆さんに、冷や水を丹念にぶっかけるようなこの所業。

 だから、冬の軽井沢に集う松、満島ひかり、松田龍平、高橋一生の4人に「ムズキュン」はない。「みぞみぞ」だ(「みぞみぞ」って造語も、尻がムズムズするんだけど)。日々演奏し、笑い合い、生活するカルテット。いつか誰かが特別(恋)を手に入れたら、この4人の普通(生活)まで壊れてしまうかもしれない。

 夫と別れた真紀が振り返る。「詩集、映画、どれも面白くなかった。こんな面白くないものを面白いって言うなんて、よくわかんなくて楽しかった」。そう言って詩集を暖炉にくべる。ボンボン燃える夫の詩集。怖すぎなんです、真紀の顔。

 以前、高橋一生が松について語っていた「とっても素敵な方ですけど、適度に邪悪で」という言葉を思い出す。「瞬間目の奥が真っ黒になることがある。『黒松』です」って、まさに束の間ギラリと垣間見えた「黒松」の顔。こんな黒いもんが安穏に普通の夫婦生活を送ろうなんて無理だったんだ! 妻の闇を改めて噛みしめる。「別れてよかったね、夫さん」と。

週刊朝日  2017年3月17日号

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カトリーヌあやこ

カトリーヌあやこ

カトリーヌあやこ/漫画家&TVウォッチャー。「週刊ザテレビジョン」でイラストコラム「すちゃらかTV!」を連載中。著書にフィギュアスケートルポ漫画「フィギュアおばかさん」(新書館)など。

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