落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「せっかち」。

*  *  *

 こんなテーマなもんで、とりあえず家内に「俺はせっかちかい?」と聞いてみた。自分ではマイペースだと思っているのだが、意に反して「寝言は寝てから言え!」との返答……あれ?

 家内いわく、私はせっかち界でもかなり「タチの悪いせっかち」らしい。マイペースでワガママなうえに、他人を巻き込む。周囲に自分と同じペースを要求しつつ、自分のペースを頑なに堅持し、決して譲らない。

 わかりにくいので、ある日のわが家の様子を家内が再現してくれた。某月某日、春風亭一之輔家の朝、9時半ごろ。この日は朝から家族で上野動物園に行くことになっていた。

私「早めに出発してゆっくり動物を見てこよう! まだ朝飯食べてんのか? チャッチャとやっつけぃっ!」
子「ごちそうさまでしたー」
私「サラダが残ってる! 完食せーい……それまでお父さんは昨日録画した『STAND BY ME ドラえもん』を観ます!」

 ドラえもんに気を取られる子供たち。

私「ええ話や(涙)……て、なに一緒に観てんだよ!! サラダに集中!」
家内「するわけねーだろ!!(怒)」

 時刻はすでに10時半。

私「着替えてこーいっ!」
子「パパもパジャマじゃんか!!」
私「お前たちの着替えが済んだら取り掛かるんだ。ダチョウ倶楽部が出てるケツメイシの動画観るから!」

 ダチョウ倶楽部に気を取られる子供たち。

家内「親が自ら手本を示せ! 動物園行くってのにダチョウなんか観やがって!(怒)」

 最寄り駅へ。駅すぱあとで検索するとあと3分で電車が来る。

私「走れーっ! あれに乗らねばっ! 早く着かないーっ!」
子「わーっ!」

 ほどなく疲れる私。「はぁはぁ……もう、いいよ、ゆっくり行こう……動物園は逃げないよ……」。

 昼過ぎに到着。大変な人垣だ。

 
子「見えないねー、パンダ……」
私「(イライラ)もういいだろ。だいたいモノトーンでゴロゴロしてるだけだ。次に行くよ!」

 泣く長女。

私「ぬいぐるみ買ってやっから!」
家内「じゃ、こんなとこ来なくてもいーじゃない!」

 ハシビロコウを観る。

子「動かないね。つまんない」
私「これがいいんだよ。『静』の趣。たまらんなぁ……」

 3分経過。「ホントに動かねーな! ダメだな、こいつ売れねーなっ!!」。

 必死に隙間をつきすぎて、何が面白いのか錯綜してしまっている若手芸人を見るようだ。

子「おなか減ったー」

 焼きそばを人数分購入。ものの2分で食べ終わる私。「まだ食べてんの? アメリカンドッグ買ってこようかな?」。

 これも人数分購入。しかし、「いらなーい」と子供たち。

家内「聞いてから買ってくればいーじゃない!?」
私「子供はアメドー(アメリカンドッグ)好きだからさー」
家内「……オメーが好きなんだろ! ったく朝から子供みたいなことばっかり言いやがって!この末っ子長男っ!!」

 涙が出てきた。「もう帰ろうっ!!」と言ったら家族全員から舌打ちされた。なぜだ?

週刊朝日 2017年3月10日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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