だがこの言葉は、時代とともに、日本の過剰なサービス精神を象徴する言葉として知られるようになった。これに対し、三波の長女・美夕紀さんは異を唱える。

「父にとってお客様とは、聴衆・オーディエンスのこと。客席にいる聴衆とステージに立つ演者という構図から生まれたフレーズです。飲食店の客や、営業先のクライアントのことではありません。本人の真意とは違う意味に捉えられることが多いのは残念です」

 三波は当時の流行の背景について、著書の中でこんなふうに考察している。

「振り返って思うのは、人間尊重の心が薄れたこと、そうした背景があったからこそ、この言葉が流行ったのではないだろうか?」(三波春夫『歌藝の天地』1984年・PHP研究所)

 過剰な要求を突きつけるクレーマーや過労死問題が取り沙汰され、再びこのフレーズを耳にする機会が多い現代日本を、三波が見たらどう思うだろうか。

※週刊朝日 2017年3月3日号より抜粋