<半袖開襟シャツに乗馬ズボン、拍車をつけた黒の乗馬靴を穿いて、重傷による荒々しい脈動と呻きを発しつつ、油絵のかかった壁面を背にした椅子に倒れていた。(中略)頭髪を短く刈り込んだ大将の頭には苦痛の激しさを語る流汗がぶつぶつと一面に吹き出していた。傷口は左腹部で、心臓を狙ったものが急所を外れたものらしく、胃と心臓の間を貫いたものと見うけられた>

 東条はその場にいた長谷川に「一発で死にたかった」。それから、ポツリポツリと「遺言」を語ったようだ。

<大東亜戦争は正当であり、正義の戦争であった。力尽きて降伏したわけだ。私は国民に対し、大東亜の諸民族に対し目的を達せられなかったことを相すまなく思う。私は勝利者の法廷で裁かれたくない>

 一命を取り留めた東条だったが、東京裁判で死刑判決を受け、48年に絞首刑となった。(一部敬称略)

週刊朝日 2017年3月3日号より抜粋