これは、若くして権力を世襲した金正恩氏が、独裁を維持するために躊躇(ちゅうちょ)せずに幹部粛清を進めていることにほかならないが、それにしても近年は常軌を逸した水準だ。こうして処刑が明らかになった幹部以外にも、主だった権力ポストの人間の多くが解任されている。彼らの解任後の消息は不明なことが多いが、中にはひそかに処刑された幹部も少なくあるまい。

 他方、こうした粛清の嵐の中、脱北して外国に亡命する幹部も増えている。

 15年にも秘密警察である国家安全保衛部(現・国家保衛省)の局長級幹部が脱北しているが、16年7月には太永浩・駐英公使が韓国に亡命し、さかんにメディアで北朝鮮批判を語っている。

 17年2月17日にも、北朝鮮から中国に派遣されていた高官が第三国に亡命した可能性があるとの情報が報道されている。

「こうした亡命幹部らが、亡命政府の樹立を模索する動きを報じられたこともあります。これに関連した報道の中には、その亡命政府のトップに金正男を担ぐ計画があったともされています。実態がどこまであるのか不明ですが、こうした亡命者の動きに関連し、金正恩に警戒され、暗殺実行命令が下された可能性もある」(同)

 少なくとも、金正男氏暗殺の背景には、北朝鮮内での粛清の拡大と、それにともなう脱北の拡大、そして、それによって粛清がさらに歯止めなく拡大するという暗黒のスパイラルがある。少しでも自分のマイナスになりそうな人間は、ことごとく殺害してしまえという金正恩氏の疑心暗鬼の中で、金正男氏は真っ先に標的にされた可能性が高い。

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