落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「プロレス」。

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 ちょっと前の話になるが、今年の1月4日、東京ドームに新日本プロレスを観に行った。毎年このドーム興行にはなんとなく足を運んでいる。

 学生時代、プロレスが好きだった。その頃はテレビ中継を録画して何度も観て、「週刊プロレス」「週刊ゴング」「週刊ファイト」「紙のプロレス」を買ったり、立ち読みしたり、貸し借りしたり。中高生の時は田舎にいたので、なかなか生観戦はできなかったが、情報収集するだけで楽しかった。

 噺家になり、前座の時は東京にいるのに、雑用に追われ忙しくプロレスどころではない。二つ目になると暇はあるのに金がない。仕方なくケーブルテレビでプロレス中継ばかり観ていた。

 アメリカの団体・WWEは現実逃避にもってこいだ。昼間から発泡酒を飲んでゴロゴロしながらスティーブ・オースチンを観てると、つらいことを全て忘れられた。一時的にだけど。

 話は戻り、年1回のプロレス観戦を年中行事にしている。

 今年も浅草演芸ホールの高座を16時40分に下りてタクシーに飛び乗る。17時が第1試合開始。ギリギリだ。車中、ツイッターのトレンドワードに「スコットノートン」とあった。開始前の第0試合にスコット・ノートンが出たらしい。実に懐かしい、そして悔しい。ノートンの衰えのない胸板、観たかったな。

 プロレス好きの漫才師、ロケット団・三浦さんとカントリーズ・えざおくんと3人でスタンド席に陣取る。三浦と私はまずビールで乾杯。売り子が可愛かったのでエビスを飲む。えざおはバイクなのでソフトドリンク。

 周囲は高校生くらいの若者が多かった。試合の様子を写真に撮り、まめにSNSにアップし続けている。液晶のぞいてる時間のほうが長いんじゃないか?

 それにしても売り子がヒマそうだ。皆、ビール飲みながら観戦しないのか? プロレス観るのに素面なんて……。

 
 セミファイナルに棚橋が登場。ようやく感情移入できる選手!!

「背中の傷は癒えたのか!?」

 と聞くと二人から、

「いつの話をしてるんだ!?」

 との突っ込み。そんなに前だったっけ?

 メインイベントのオカダ・カズチカ対ケニー・オメガ。これは引き込まれた。ケニー、スゴい。負けはしたけど一番記憶に残ったのはケニーさん。もちろん勝ったオカダも輝いていた。

 プロレスラーと落語家って似ている。レスラーはめいっぱいのパフォーマンスを魅せつつ、敵をも輝かせる。落語家は噺を対戦相手に、試合(高座)を組み立てて観客を魅了する。

 多少しょっぱい噺でも演りようによっては面白くもなり、作品自体が魅力的でも下手に演ると台無しにしてしまう。似ているなぁ。間合いも大事だし。

 ……そんな話を近所の居酒屋でして「じゃ、また来年も行きましょー」と解散した気がするが、あまり覚えていない。

 翌日、満員の寄席のお客様に、

「年1回寄席に行けばいいと思ってたらダメですよー。またすぐに来てくださいねー」

 なんてマクラを話してる自分がいて、「やっぱり落語とプロレスってちょっと似てるかもしれない」と思った次第。

 他人に言ってる場合じゃない。今年は何回か行ってみよう、プロレス。

週刊朝日 2017年2月24日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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