超低金利の日本。“伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏は、財政再建から逃げまくっている今の状況に警鐘を鳴らす。

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 一昨年亡くなった叔母の遺品に、私の送った手紙類があった。妹が見つけて送ってくれたので中身を見ると、こんなものまで取ってくれていたか、と涙が出た。

 三井信託銀行ロンドン支店(当時)の赴任直後に送った、1982年冬の手紙が目を引いた。ビジネススクールで2年間英語漬けだったとはいえ、聞き間違えると巨額損失につながるだけに、ビビって英語での取引から逃げまくった様子がうかがえる。英国人アシスタントが記録できるように、会話はマイクから流れていた。以下は手紙にあった仲介業者と私とのやり取り。

仲介業者 6カ月資金の貸し手希望レートは14と15/16%、借り手の希望レートは14と13/16%。興味ありやなしや?
私 興味なし
仲介業者 フランスの銀行が15%まで支払うという。興味ありやなしや?
私 興味なし
仲介業者 サー、私の名はジョン。あなたの名前は?
私 興味なし(周り爆笑)

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 手紙が私の目を引いたのは、失敗談もさることながら、金利のレベル。15%近辺のこのレートが、ドル、ポンド、スイス・フラン、どの通貨だったかは記憶にない。どれにせよ、現在の0%周辺の円短期金利やドルの政策金利0.5~0.75%より著しく高い。

 一方で、現在の超低金利も異常だと認識したほうがよい。特に、FRB(米連邦準備制度理事会)の定める政策金利は、米国経済の情勢と比べて低すぎる。

 バブル期の日銀は、消費者物価指数の上昇率が1%以下だったことに目を奪われ、資産価格の高騰を無視した。その結果、金融引き締めが大幅に遅れた。

 FRBは同じ政策ミスをしているように思えてならない。米国は完全雇用で、株価は史上最高値の水準。地価も堅調だ。昨年12月下旬に発表された第3四半期の米実質国内総生産(確報値)は、年率換算で前期比3.5%増と潜在成長率を超えた。この状況で、0.5~0.75%は低すぎる。

 
 FRBが金利を引き上げると日米の金利差が開き、ドル高円安が進む。日本の景気上昇につながるから、日本人にもFRBの金融政策の注視は重要となる。

 日銀の量的質的緩和政策が出口に近づくと、円の長期金利は急騰する可能性が極めて高い。日本は1053兆円もの借金を抱えており、金利が少しでも上がると支払金利は大きく増加する。財政はとんでもないことになる。将来の金利上昇を考えると、現状は非常事態のはずだ。なのに、これを常態と見てばらまきを続け、これ以上借金を増やすことはとんでもない話だ。

 作家の塩野七生氏は『コンスタンティノープルの陥落』(新潮文庫)で、

<しかし、他人の身を預かる者の最も心しなければならないことは、慣れからくる判断の誤りである。常態と化した非常事態も、いつなんどき真の非常事態に変るかもしれないのだから、それへの対応策も考えておかねばならないということだ>

 と書いている。

 政治家や政府が肝に銘ずべき言葉だと思う。

週刊朝日 2017年2月24日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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