しかも、日本からの輸出は「レクサス」「インフィニティ」など高級車の比重が高い。最高の品質を維持するためには、高度な技能が必要な車種を海外へ移管することは難しい。もし移管すれば、日本は一層の産業空洞化に追い込まれ、賃金や雇用に幅広く影響しかねない。この点から、「いずれトランプ氏の要求とアベノミクスが衝突するのでは」(部品メーカー幹部)と危惧する声もあがる。

 トヨタの大竹哲也常務役員は2月6日の決算発表の場で、「日本はトヨタの競争力の源泉。国内生産300万台堅持の考え方は変えていない」と強調した。

 とはいえ、トランプ氏は米国の経済発展と雇用拡大のため、日本の自動車産業にさらなる貢献を求めてくるだろう。その要求を無視することは難しい。

 日本の自動車メーカーにとって、米国は今や最大のドル箱市場。北米依存度は高まるばかりで、16年4~12月の米国販売は、ホンダと日産が過去最高、トヨタもリーマン・ショック以降で最高だった。交渉上手のトランプ氏は、日本側の足元を見ているはずだ。

 トヨタの豊田章男社長も、さらなる米国への貢献について強く意識しているようだ。

 首脳会談後の11日、静岡県湖西市で記者団の囲み取材に応じ、「これからも国と産業界が力を合わせながら両国の発展をめざし、米国でも良き企業市民であり続けるよう努力したい」と答えた。

 すでに、今後5年間で米国に100億ドルを投資するとも表明している。自社工場があるインディアナ州の知事だったペンス副大統領とも会談し、トランプ氏の意向を探ろうとした。豊田社長の「ふだんは数字を言わない私が、あえて数字を言った」との発言の意味は大きい。

 20年以上自動車産業を取材してきた経験から、トランプ氏の「落としどころ」は、「現地調達率の拡大」ではないかと考える。

 トヨタの米国製車の現地調達率は70%程度とみられ、日本からの部品輸出もしている。米国側は、部品の現地生産のさらなる拡大と米国企業からの調達を求めてくるのではないか。日本の自動車産業は、新たな試練を迎えている。

週刊朝日 2017年2月24日号