ケンタッキー工場は今やトヨタの世界最大級の生産拠点で、約1万人の従業員を抱える。敷地内に3億6千万ドルを追加投資して組み立てラインを新設し、15年秋から米国で初となる最高級ブランド「レクサスES」の現地生産も始めた。それに合わせ、約800人を新規雇用。トヨタはこれまで、219億ドルを米国に投資してきた。

 米国での雇用創出に貢献しながらも、トヨタはトランプ氏から「メキシコに新工場を造るのなら、高い関税を払え」とツイッターで恫喝的な“口撃”を受けた。

 トヨタがメキシコで2番目の完成車生産拠点となる新工場をグアナファト州に稼働させるのは、19年からの予定だ。カナダ工場で生産が追いつかないカローラをメキシコ新工場で補う戦略なので、米国内の仕事が奪われるわけではない。

 しかも、トヨタはメキシコ進出に出遅れた存在。日産が16年にメキシコで1位の85万台を生産したのに対し、トヨタはわずか14万台。マツダ(15万台)よりも少なく、日系乗用車メーカーで最下位。トヨタOBは「トヨタが槍玉に挙がるのは、トランプ氏がトヨタを日本の産業界の象徴とみなし、日本政府を揺さぶろうとしているから」とみる。

 米ビッグスリーとは違い、トヨタは米国内の生産拠点を捨ててメキシコに移転したわけではない。トランプ氏の事実誤認による“口撃”としか思えないが、同氏と会食した経験がある自動車メーカー元役員はこう指摘する。

「彼はビジネスマンで交渉上手。本質をつかむのが早く、ふっかけてきて落としどころを探るのもうまい。会食会場でGMやフォードの役員に向かって、もっと日本を見習えと言っているのを聞いたことがある」

 トランプ氏はトヨタ=日本を揺さぶり、何かを引き出そうとしているように見える。この構図は日米自動車協議のときと変わらない。

 しかし、トランプ氏が貿易赤字の主因と位置づける日本からの自動車輸出は、簡単な妥協点が見つかりそうにないのが実情だ。

 トヨタに限らず、日本の大手はすでに米国での現地生産を加速させてきた。ホンダの現地生産は95年に55万台だったが、16年は129万台。約3万人を直接雇用する。対米輸出は23万台から8万台に激減した。日産自動車も同様に、現地生産を46万台から100万台にまで増やした。

 現地生産をこれ以上加速させると、対米輸出が減る。国内生産が減少し、国内の雇用や下請け企業の経営に影響を及ぼす。

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