2月3日に来日したマティス国防長官は中国が領有権を主張する沖縄県の尖閣諸島は「日米安全保障条約第5条の適用範囲」と明言。トランプ氏も同様の認識を示し、懸案の在日米軍の駐留経費負担増にも触れず、「満額回答」(官邸幹部)と胸をなでおろした。

 だが、米国の対中外交姿勢に懐疑的な見方は少なくない。元外務省国際情報局長の孫崎享氏はこう言う。

「トランプ氏の大統領就任時のホワイトハウスの政策に中国への言及が一切なかった。トランプ氏は実業家として中国経済界と深く結び付いており、多額の融資を受けている関係にある。米国の対中貿易赤字は最大とはいえ、経済的に中国にかなり依存している」

 こうした見解を裏付けるように、トランプ氏は9日、中国の習近平国家主席と初めての電話会談を行い、歴代米政権が堅持してきた台湾を中国の一部とみなす「一つの中国」政策を「尊重する」と伝えた。

 トランプ氏に強い影響を与える長女、イバンカさんは1日に中国大使館で開かれた旧正月のパーティーに姿を現した。イバンカさんは娘のアラベラちゃんを「私の通訳です」と崔天凱駐米大使に紹介した。

 安倍首相が訪米する直前になって、トランプ氏がこうしたパフォーマンスを中国にする真意は何なのか?

「米国が中国と関係改善へ動き出す可能性が証明された。中国が貿易赤字解消や元安是正などのシグナルを送れば、米中が手を握る可能性は否定できない。トランプ氏はゴルフなどの演出を施し、日本をダシにして米中関係改善のテコにしようとする得意のディール(取引)外交ではないか。安倍首相も警戒感があり、朝貢外交といくら批判されようが、先手を打って米国に抱きつき、同盟重視をアピールするしかなかった」(前出の政府関係者)

 米中関係について外交評論家の小山貴氏はこう読む。

「米国は北朝鮮の暴発を防ぐため、中国の協力が不可欠と判断したのではないか」

 2月10日、安倍首相との共同会見でトランプ氏は日本人記者の質問に対し、こう語った。

「中国とは非常にうまくやっていくことができるだろう。それはいずれ、日本にとっても利益になる」

 米中という大国のプレッシャーの狭間で、首相は神経をとがらせながらのゴルフだったようだ。(本誌・村上新太郎)

週刊朝日 2017年2月24日号