落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「タクシー」。

*  *  *

 毎週日曜の朝、ラジオの生放送のため、タクシーが迎えに来る。4時半には自宅前に車が待機してくれていて、仕事とはいえ朝早くからありがたい。

 運転手さんが3人、ランダムに代わる。その日にならないと誰が来るのかわからない。

 仮にAさん・Bさん・Cさんとする。

 Aさんは60代の白髪頭を七三に分け、銀縁眼鏡。教頭先生みたいな几帳面そうなおじさん。

 Bさんは50代。ボサボサ頭で色黒、ガッチリとして背は低いが、眼光するどい。おでこに老眼鏡を乗せている。「ど根性ガエル」のひろしみたい。

 Cさんは30代か? 飄々とした調子のいいアンちゃんだ。

「どぉもぉぁりぃがとうござぁっすー」

 と挨拶する。何かあると、

「あーすいますぇんですぅ!」

 と謝ってくるのが、軽くイライラする。

 Aさんは、玄関前で必ず車の外で直立不動で待っている。

「寒いので中にいてくださいね」

 と頼んでも、

「いえ、大丈夫ですので!」

 と言ってきかない。私が寝坊して出るのが遅れても震えながら外にいる。B・Cさんは必ず車の中。Cさんは居眠りしてたり。いや、別にいいんだけど……。とにかくAさんは車の中にいてほしい。こっちが気を遣うよ!

 自宅からスタジオまでのルートが三人三様。特にこちらから指示せずおまかせだ。

 意外だが、真面目なAさんが一番料金がかかる。カーナビの言いなりに行くからかも。Bさんが最短距離を行き、運転も一番上手い……ような気がする。Cさんはたまにルートを変える。前回は最短だったのに、忘れてしまったのか、次は遠い道を行く。よくわからない。

 トランクを使う時は、Aさんは荷物を入れてフタを閉めるとこまでやってくれる。さすが気遣いの男。

 Bさんは、「トランクお願いしまーす」と言うと、無言で開けてそのまま放置だ。

 
 一方、Cさん。「かしこまりましたー」と運んでくれるが、一度フタを閉め忘れて発進し、パカパカなまま到着したことも。

 Cさんは「いかがすかー?」とのど飴をくれる。気が利く。でも私が眠いのに「お仕事大変ですか?」とか、やたらに話し掛けてきてイライラさせる。

 Aさんものど飴をくれるが、それが滅法不味(まず)い。プロポリスで効きそうなんだが、「いつもすいません」と言って舐めずにポケットにしまいこむ。ごめん。

 私は鼻炎なのだが、車内にボックスティッシュを常備してるのはBさんのみ。でもティッシュがホコリ臭い。Aさんは「お風邪ですか?」とポケットティッシュを差し出してくれたことがあるが、ポケットから取り出したばかりで温もりが気持ち悪かった。Cさんはアレルギー持ちなのか、いつも鼻をズルズルしていて「鼻かめよ、おい」とめちゃくちゃイライラする。

 3人とも違うタイプの運転手さんで朝から面白い。ツラツラと書き連ねてきたが、観察しといて名前すら知らない私もちょっとどうか?……とも思う。

 3人とはほとんど会話をしないし、これからもほどよい距離感でいたい。足して3で割った人が一人いればいいかと言えば、そうでもなく……。お三方、今後ともよろしくお願いします。

週刊朝日 2017年2月17日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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