さらに、トランプ政権はイランの核・ミサイル問題に関しても、オバマ前政権とは違い、イラン側に非常に強硬な態度を示している。これを、イランの宿敵であるイスラエルは歓迎しているが、こうしたトランプ政権のイスラエル優遇政策もまた、イスラム過激派からすれば、「敵の攻勢」そのものに映るだろう。

 ちなみに、トランプ大統領自身はキリスト教徒だが、長女イヴァンカの夫であるジャレッド・クシュナーがユダヤ教徒で、彼と結婚したイヴァンカもユダヤ教に改宗している。

「クシュナーは今や大統領に最も近い側近として活動しているが、トランプ政権のイスラエル重視には、こうした背景がある」(外務省関係者)

 トランプ政権はかねてIS殲滅(せんめつ)を公約としていたが、1月26日には、比較的穏健なイスラム組織である「ムスリム同胞団」をテロ組織に指定する案が、マイケル・フリン国家安全保障担当大統領補佐官を中心に検討されていることが明らかになった。フリン補佐官は、かねてからイスラム勢力に対する強硬な態度で知られている人物だが、もしもこうした案が実行されれば、穏健なイスラム教徒を過激な勢力に近づけてしまうことになるだろう。

 以上のように、トランプ大統領の対イスラム差別・敵視政策は、イスラム過激派からみれば、まさに現代の「十字軍」にほかならない。イスラム過激派の世界では、十字軍に対しては、より激烈な反撃を行うことが、より貴いジハードとみなされる。

「今、彼らにとって最も価値あるジハードは、十字軍の首領たるトランプ大統領を暗殺すること。もちろん米国大統領は常に厳重に警護されており、そう簡単に殺害することはできないが、そうであれば、次なるジハードの標的は、トランプ大統領を選んだ米国民に向かうことになるだろう」(米軍事関係者)

 現在、トランプ政権の大統領令により、中東7カ国の国籍保持者のアメリカ入国は難しくなっているが、実際には過去のテロ犯の多くは、この7カ国以外の国出身である。また、冒頭に紹介したネットのコメントのように、多数いる米国籍のイスラム教徒の中から、過激思想に入り込む者が出てくる可能性もある。また、海外にいる米国人が狙われる危険も高まっている。

 トランプ大統領が開いた宗教対立の罪は深い。

週刊朝日 2017年2月17日号