「アラビア半島のアルカイダ」は翌日、この攻撃をトランプ大統領の入国禁止措置と結び付け、「アメリカがイスラム教徒と戦争している証明だ」との声明を発表している。トランプ政権の挑発的なイスラム敵視政策をきっかけに、世界中のイスラム過激派が今、アメリカとの戦いを正当化しているのだ。

 米政府は表向き「宗教差別ではない」として、あくまで国別の対応をしており、「イスラム教徒」という括りでの措置はとっていないが、それはタテマエにすぎない。例えば、トランプ政権でサイバー・セキュリティー・アドバイザーに指名されているジュリアーニ元ニューヨーク市長は1月28日に出演した米FOXニュースで、「トランプ大統領から、合法的にイスラム教徒を入国させない方法について尋ねられた」と証言した。

 また、大統領令に署名する前、トランプ大統領はキリスト教系の米CBN放送に対し、イラクやシリアで迫害されてきたキリスト教徒を助けたい旨の発言をしている。トランプ大統領は自身のツイッターでも、1月29日に「中東では多数のキリスト教徒が処刑されてきた。我々はこの惨劇が続くことは許さない」と書いており、自身の対テロ政策の基本に、キリスト教徒のための戦いという宗教的な意識が非常に色濃いことを示唆している。

 それだけではない。トランプ大統領は支持基盤のひとつであるキリスト教右派を優遇し、同派の大物であるベッツィ・デボスを教育長官に指名。さらに福音派の大物2世であるジェリー・ファルウェル・ジュニアを教育省改革本部長に指名するなど、キリスト教右派との連携を強化。2月2日には、教会などの政治活動を制限している税法のジョンソン条項を撤廃することを示唆するなど、明らかにキリスト教優遇策を打ち出している。

 他方、トランプ大統領はユダヤ教にも気をつかっている。ユダヤ教徒の国・イスラエルにおいて、米国大使館のエルサレム移転の意向を示しているのだ。エルサレムはユダヤ教、キリスト教、イスラム教の共通の聖地だが、そのエルサレムをめぐってイスラエルとパレスチナが争っていることから、アメリカは政治的配慮で大使館をそこには置かず、テルアビブに置いていた。大使館をエルサレムに移転するということは、イスラエルの首都を正式にエルサレムと認めることを意味する。これはイスラム世界からすれば、敵対的な行為にほかならない。

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