金原:でも、綿矢さんは人がすごくイヤだと思うことを書くよね(笑)。

綿矢:そうかな。

金原:私は悲惨な話も書いてるけど、「この世界で生きていてもいい」って思う美意識を通した世界しか書いてない。でも、綿矢さんの小説はえげつない(笑)。いじめであったり、どす黒い女のマグマ的なものであったり。自分の子にはこんなことを経験してほしくないと思うことがしっかり書いてある。私も生々しいものをえぐり出してるつもりだけど、多分生々しさの質が私とは別ベクトルで突き抜けてる。

──「芥川賞ダブル受賞」で2人が衆目を集めたのが、綿矢さん19歳、金原さん20歳のときだった。

綿矢:芥川賞作家が本を出していないのは、説得力が薄いと思っていました。受賞当時、デビュー作の『インストール』と受賞作の『蹴りたい背中』の2冊しかなかったので。

金原:私はデビュー作の『蛇にピアス』で受賞しちゃったから。前日まで担当編集者に「絶対取らないから大丈夫。あり得ないから」って言われてた。いま思えば取らない取らない詐欺(笑)。だから、全然心構えができてなく、ポカンとしてました。

綿矢:私ははじめのうちはうれしさと重荷と両方。賞をくださった方に応えたいし、自分が納得する作品を書きたい。いろいろ考えているうちに書けなくなっちゃった。結局、「小説の内容が思い浮かぶから書く」という基本に戻したら、また書けるようになりました。賞への思いが薄れてきてからのほうが、小説と向き合うことができてよかった。

金原:受賞と同じ年に結婚もしたので、転機となった1年でした。ただ、当時は書きたいから書く、くらいの無邪気な気持ちで小説を書いていたので、重荷やプレッシャーはなかったです。

綿矢:いま振り返ると、書けない間もずっと待ってもらえ、仕事をいただけるのは芥川賞のおかげだと。

金原:私も仕事のあるありがたさを痛感します。芥川賞はやはりすごく大きい。

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