作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏は、トランプ大統領の就任後に起きた抗議デモから、日本の性差別の厳しい現状を痛感させられたという。

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 女性への侮蔑発言を繰り返すヒトがアメリカ大統領になったことで、ワシントンでは大統領就任翌日に50万人もがウーマンズ・マーチに参加したという。ピンクのニット帽をかぶった女性たちが性差別を許さないと声をあげ、マドンナのスピーチの様子などが、多くの人のSNSで紹介されていた。

 女たちの気高い闘い。ああ、ふだんの私なら飛びつく類いの話題なのに、どういうわけか心が冷めてしまってる。

 ちょうど、取材中のJKリフレ(女子高校生とのハグや添い寝を売りにする店)や、ランドセルを背負った女性(小学生っぽく見える成人)と添い寝する風俗の店案内を読んでいたせいもあるかもしれない。つくづく思うのだ。日本の性差別、アメリカの比じゃねぇわ。日本にマドンナいねぇわ。そもそもだけど、「きれいごとは言わない、俺は本音で話す」という調子で、トランプ以上の女性蔑視発言繰り返す男の政治家など珍しくねぇわ!とやさぐれた。DT(←トランプです)どころじゃない、日本のSS(←性差別です)に手一杯だよ! 今ここにある危機だよ! ジャパン・ファースト・フェミニストな気分なのだ。

 
 先日、友人(30代男性)に、日本のフェミニストは敗北宣言をするべきじゃないか、と言われた。ジェンダーギャップが世界最高レベル(つまりは女性が活躍できてない)で、男女の賃金格差は大きく、女性の政治家は増えず、性暴力問題は山積みで、何より日本のフェミニストにとって肝であるはずの「慰安婦」問題が解決できていない。いったい日本のフェミニストは何を目指して、どう闘ってきたのか、と。そう言われ、「はぁ? じゃあ、男は何をしてくれたのよ?」と言い返したい気持ちはあったけど、何となく唸るように黙ってしまった。

 昔よりは確実に女が手にする自由は増えたはず。闘ってきた女たちはたくさんいる。でも何故「世界」に比べて私たちの歩みは、こんなにも遅いんだろう。何故、アジア全域で行われた日本軍「慰安婦」について、私たちはよく知らないんだろう。女児のランドセルに欲望する“サービス”が商売になるのは、何故なんだろう。セックス産業がこれだけ発展し、女のモノ化が何の違和感もなく深まっていく日本の現実に、最も敏感に反応しなければいけないフェミが、今は追いつけていないのは、事実なのだと私も思う。

 ワシントンで、女たちは女性器をイメージさせるピンクの帽子をかぶって行進した。女性器をモノ化する発言をしたトランプへの抗議が込められているという。そういう抗議に50万人が集まる国、そこは何だかんだ言っても民主主義や女の人権運動が機能している国なのだ。トランプ的発言に、ある意味慣れてしまっている日本で、じゃあ私たちはどう声をあげていこう。マドンナかっけー、と憧れている場合じゃなく、DTきっかけのワシントンデモで、日本の女の現実を突きつけられた。

週刊朝日  2017年2月10日号

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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