すでにリタイアした上の世代のようにはいかないとの生活実感があり、今回の提言が将来の不安に拍車をかけているのだ。

 子ども3人を育て上げた愛知県の会社員R子さん(56)は離婚を経験し、中年になってから就職した。今は築45年の中古マンションに長男と一緒に住んでいる。「75歳提言」には呆れるとともに、途方に暮れたという。

「60歳定年と思って働いていたら途中で年金支給が65歳になって。介護保険料も40歳から支払っている。それだけでもうんざりしているのに、今度はいきなり75歳まで働けと言われたようなもの。体力や気力は衰えていくのに、どう生活設計をすればいいのでしょう」

 現在、手取りは月15万円。今の会社で働き続けても退職金はなく、好待遇の企業への転職も考えづらい。

「健康であり続けて、今の収入が維持できればぎりぎり生活はできると思います。でも、万が一事故にあったら? 病気になったら? 介護保険のサービスの自己負担が増えたら、年金だけではとても生活できるとは思えないのです」

 とはいえ、R子さんは、子どもたちに頼るのは避けたいと考えている。若い世代こそ、不安定な世の中だからだ。

「十分な収入が得られず、結婚を躊躇したり、子どもを持てなかったりする社会で、子どもたちの世話になりたいなんてとても言えません」

 アンケートの中で多かったのは、「一律に年齢で区分すべきではない」との意見だ。身体機能や認知機能などの健康面には当然個人差がある。そして、高齢者の手前の区分の年齢でも、健康状態ががらりと変わることだってあるのだ。

 65歳を過ぎても大学教員として教壇に立ち続けたKさん(72)は、2年前に大病に見舞われた。58歳まで公務員として35年間働き、その後10年間大学教員を務めた。年齢とともに体力は衰えたが、働く意欲は一向に衰えなかった。教員退職後は、大学のシンクタンクに入り、働きだした。

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