年金手帳 (c)朝日新聞社
年金手帳 (c)朝日新聞社

 何歳からが老人か。江戸時代なら40歳で隠居が当たり前だったが、いまでは100歳でも現役という人もいる。社会的にはこれまで「65歳」が一つの目安だったが、日本老年学会と日本老年医学会の提言により、「75歳」に引き上げられる可能性が出始めた。「老後」はますます遠のいていく。「死ぬまで現役」は幸せなのか。

世間で最も懸念されているのは年金や医療、介護といった社会保障のカットだ。

 いまは65歳を基準にしている社会保障の制度が多く、基礎年金の支給が始まり、介護保険で原因に関わらずサービスを受けられるのは65歳以上だ。だが、社会保障費は歳出の3分の1を占めるまで膨らんでいる。制度の恩恵が受けられる年齢を70歳や75歳まで引き上げる“口実”に、今回の提言が使われるかもしれない。

 行政や政治として両学会の提言に関与はしていないというが、政府・与党の関係者には、基礎年金の支給や介護保険のサービス開始年齢の引き上げは将来的に避けられないとする人も多い。提言について「引き上げに向けた議論の後押しにはなる」(財務省幹部)といった声もささやかれ、正直、政府は大歓迎なのだ。

 さざ波のように不安や疑念が広がっている「高齢者は75歳から」。それが浸透したら、人生設計で何が大事になり、われわれの生活はどのように変わっていくのだろうか。

 認知症など高齢者の医療問題に詳しい医師(神経内科)で作家の米山公啓さんは、見直しには賛成しつつ、次のように指摘する。

「高齢になればなるほど個人の健康に関するデータのばらつきは大きくなります」

 基準年齢の見直しは全体でみると正しくても、個々人にとっては当てはまらないことがあるのだ。

「同じ年齢でも喫煙や飲酒など生活習慣によって健康状態には差が出てきます。一人ひとりのデータの推移を見なければいけない。高齢者になるのが遅くなる分、健康管理も長期戦になるので、早めの生活習慣の改善が求められます」(米山さん)

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