西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、昔と今の自主トレの違いを指摘する。

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 昨年の日本シリーズの激闘が今も鮮明に記憶に残っているが、早くも今季に向けた自主トレの話題が連日報じられている。温暖なハワイやグアムで自主トレを行う選手も多い。そして、今オフはダルビッシュ(レンジャーズ)が都内の施設で投手、野手問わず選手を集めてトレーニングを行っているのが印象的だ。

 ダルビッシュのような超一流選手、そしてトレーニングやサプリメントの知識を持った選手が、日本国内の選手に伝えることは、野球界の発展にとって、素晴らしいことだと思う。参加した選手も高い意識を持って取り組んでほしい。ただ体を大きくする、パワーをつけるといったことだけでなく、自分の体をよく知り、どうやったら野球の動きに生かせるかといったことも考えてほしいね。

 それにしても、私の現役時代は、国内で温泉地などに宿を取りながら、海岸やゴルフ場を走ることしかなかった。大分や佐賀の唐津などに行き、決まって行ったのは5キロ前後のロードワーク。それが終わったら、ダッシュ。腹筋、背筋も今のような器具で鍛えることはなかった。他のチームの選手と合同自主トレを行うことも少なかったよね。毎年、この時期の自主トレの光景を報道で見ると、自分のやっていた時のことを懐かしく思う。

 昨年も言ったが、方法論が増えたといっても変わらないことがある。それは自分の体のことをしっかりと把握すること。選手個々で鍛える目的は違う。何を採用して、何を捨てるのか。その選択次第で野球人生も変わってくる。

 体を完全に休めるという期間も年々少なくなってきている。準備のための準備という言葉を使う選手もいる。ソフトバンクの松坂大輔は12月にプエルトリコのウィンターリーグで4試合に登板した。2年間で1軍登板はわずか1試合。今年は野球人生をかける年になると思う。

 
 大輔は球威で押す形から、ツーシームやカットボールなどで細かくボールを動かす形を模索しているという。ただ、見失ってはいけないのは、ボールを動かすにしても、ある程度、速球のキレが必要になるということだ。そのためには、体の柔軟性を保ち、どれだけロスなく力を指先に伝達できるか、がカギとなる。

 過去において、速球派から技巧派へ転身を見事に遂げた一人として、鈴木啓示さんがいるが、そんなに簡単なことではないよ。まず、配球面も大きく変わる。球威があれば、初球から速球でファウルを打たせてカウントを稼げるけど、技巧派はそうはいかない。どうやって打ち取るかを常に頭に描きながら、逆算で球種選択、コース選択をする必要がある。それまでやってきた頭の中の概念をすべて取っ払い、その上で新しい組み立てを構築していく必要がある。鈴木さんも、勝てない時期はあった。

 私も2月上旬に宮崎キャンプで大輔の投球を見ることを楽しみにしている。ソフトバンクは田中正義も入団してさらにハイレベルな1軍争いとなる。はっきり言えば、大輔が開幕1軍を勝ち取るには、相応の結果が必要だろう。12月の経験を今の時期の自主トレにどうつなげ、そしてキャンプインを迎えるのか。

 3月にはWBCが行われるし、開幕前から熱くなる。今年も時には厳しく、意見をしていきます。

週刊朝日 2017年1月27日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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