扇千景が義母から告げられた「外泊」の意味とは? (※写真はイメージ)
扇千景が義母から告げられた「外泊」の意味とは? (※写真はイメージ)

 夫は人間国宝の坂田藤十郎。妻は桐花大綬章も受章した、元参議院議長・扇千景。それぞれの道で頂点に上り詰めた夫婦の素顔は、「カンコ」「ボンちゃん」と呼び合うほど仲の良い、穏やかなものだった。

*  *  *

妻:今の芸能記事を見ると、「梨園の妻」って、すごく大変みたいで。かわいそうだなあ、って思いますね。

夫:そうだねえ。

妻:夫がちょっと浮気をしたぐらいで書き立てられる。

夫:私たちの若いころとは時代が違うんですね。

妻:結婚してすぐのころ、歌舞伎の顔見世興行が京都であるんですけど、義母がね、言うの。「カンコ(寛子・妻の本名)ちゃん、ボンちゃん(坊ちゃんの意)が家に帰って来るのは、初日と千秋楽だけどすえ。あとは外泊どすえ」って。

夫:「外泊」ね。

妻:それが当たり前の世界。やきもちなんていちいち焼いてたら、こっちの身が持ちませんよ。この人のお父さん(二代目中村鴈治郎)なんて、外にお子さんが2人もいて。亡くなったときには遺産相続で大モメ。

夫:あはは。

妻:そのとき、この人に言ったんですよ。あなたも、もし誰かいるなら今のうちに言ってちょうだい。ついでに対処しますから!って。

夫:さすがにそれはないから。安心してください。

――大スターだった夫と、新人俳優だった妻

夫:初めて会ったんは、映画の撮影現場やったな。

妻:昔、シネラマっていう、ワイド画面の映画があって。アメリカから日本へ、そのシネラマの撮影が来る、と。それを当時二代目中村扇雀だったこの人が見学に来る、ってことになった。報道陣も詰めかけてね。

夫:この人、舞妓さんの格好で、その映画に出てたんですよ。

妻:私はまだ新人で。その他大勢の一人。当時の中村扇雀って言ったら、アイドル並みの人気でしたから。宝塚の先輩たちは色めき立って大騒ぎ。でも私、彼のこと、全然知らなかったんですよ。話しかけられても、へぇーってぐらいで。

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