セッションごとにホームワーク(宿題)として、練習したことを次回までに日常生活のなかで実践する。石野さんはとくにコンビニでのトレーニングで自信をつけ、人の目を見て話ができるようになった。

 石野さんはサボらずに通院し、16回で治療を終えることができたが、16回終了後も不安や緊張がとれない場合は、セッションを追加する。人前での不安感が多少あっても行動できる状態が半年続くことが治癒の目安となる。この間、患者によってはそれまでの薬物療法を継続することもある。

 石野さんは就職活動にも意欲的に取り組み、無事就職が決まったという。

「社交不安症は若い人に多い傾向がありますが、人前でのプレゼンなどの仕事上の失敗などから働き盛りに発症するケースもあります。認知行動療法は年齢に関係なく、今の自分の状態を変えたいという気持ちが少しでもあれば、効果的に取り組んでいただけます」(同)

 認知行動療法は、不安は考え方や行動パターンの修正によりコントロールできる、との考え方に基づく。

 同じ社交不安症に有効とされる治療法でも、「森田療法」はまったく逆の見方をする。すなわち、不安はコントロールできるものではないと考え、不安を抱えながら生きていくことのサポートを中心とする。森田療法は日本発祥の心理療法で、もともとは入院治療が基本だが、現在は外来が中心になっている。

 飯田橋メンタルクリニック院長の三宅永医師は、

「森田療法の基本は、不安感はあって当然のものと考え、気になって仕方がない自分を“あるがままに”受け入れること。そのうえで、家事や仕事、学業、趣味など、“自分のなすべきことをなす”、つまり行動をすることに注力していきます」

 と解説する。気になることや嫌なことがあっても、とにかくその日にやるべきことをやる。これを繰り返していると、やるべきことのほうに意識が集中して、不安を意識しなくなる、このような状態をめざすのだ。

週刊朝日 2017年1月6‐13日号より抜粋