漫画家の山岸凉子さんの魅力とは(※写真はイメージ)
漫画家の山岸凉子さんの魅力とは(※写真はイメージ)

 作家でコラムニストの亀和田武氏は、週刊朝日で連載中の『マガジンの虎』で、AERA12月12日号の<現代の肖像>で紹介した漫画家の山岸凉子さんを取り上げた。

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 本郷の弥生美術館で開かれている山岸凉子展は盛況のようだ。「AERA」(朝日新聞出版)12月12日号の<現代の肖像>は、デビューから47年間、新しい世界に挑戦しつづけたマンガ家、山岸凉子にスポットを当てる。

 原画展の様子を、島﨑今日子はこう記す。「2階の階段踊り場には、『日出処(ひいづるところ)の天子』の厩戸王子のほぼ等身大のパネルが置かれていて、『夢のよう』と高揚しながら王子とのツーショットをスマホに収める人が絶えない」

 古代史の権力闘争を背景に、厩戸王子が持つ超能力、そして両性具有(アンドロギュヌス)的な妖しい美を体現する王子の、若き蘇我毛人に抱く切ない愛を描いた長篇は「LaLa」(白泉社)80年4月号から始まった。

 人間心理の深奥と恐怖を新鮮な切り口と線で描く傑作短篇を、当時の山岸は次つぎと発表した。次は何か。期待を裏切らない連載が始まった。

 短篇でのエッジが利いたサスペンスを、古代を舞台に壮大な耽美ロマンとして描く。連載が完結するまで4年間、私も「LaLa」を購入した。

 初期の代表作『アラベスク』の台詞。「本を読むにも映画をみるにも道を歩くにもバレエに良かれとおもうことしかやってこなかった」。里中満智子が16歳でデビューした衝撃を受け、高校生の山岸もマンガのためだけに生き始める。

 山岸さんの写真はない。47歳でバレエを再開した。「バレエ教室で正体を知られたくないからだ」

 ある出来事により、47歳からスランプに陥ったとある。53歳になって“新しい創作の泉”を発見したとも。それが何か。二つの謎にはヒントすらない。でも、この作者にはそんな神秘性がよく似合う。

週刊朝日 2016年12月23日号