イッセー尾形(イッセー・おがた)/1952年、福岡県生まれ。映画、芝居で活躍。「妄ソーセキ劇場」は『明暗』『門』『道草』『草枕』などを演じた(撮影/写真部・長谷川唯)
イッセー尾形(イッセー・おがた)/1952年、福岡県生まれ。映画、芝居で活躍。「妄ソーセキ劇場」は『明暗』『門』『道草』『草枕』などを演じた(撮影/写真部・長谷川唯)
「妄ソーセキ劇場」の自筆台本(撮影/写真部・長谷川唯)
「妄ソーセキ劇場」の自筆台本(撮影/写真部・長谷川唯)

 2016年は夏目漱石が亡くなって100年。『坊っちゃん』『吾輩はである』と、今も色あせない作品の数々は各方面にファンが多い。ひとり芝居「妄ソーセキ劇場」を始めたイッセー尾形さんに、漱石の魅力について語ってもらった。

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 ひとり芝居で「妄ソーセキ劇場」と名づけて漱石の作品をテーマにしたものを始めました。

 漱石は小説家と改まった感じでなく、「漱石さんっ」て感じで親しく読ませてもらっていました。太宰治なら主人公を取り巻く世界こそ濃密に書かれていますが、そこからずれたところにいる人はほぼ書かれていません。ところが、漱石の作品には『草枕』の床屋さんや『坑夫』の男たちみたいに「お前の人生なんか関係ない」と言う人がいたり、女性問題とか友人を裏切るとか濃い関係になる人もいたりする。主人公に興味ないとする存在と脅かす存在とです。両方を漱石さんはきちんと書いています。ほかの作家にはなかなかないもので、漱石さんの目が行き届いている感じです。

 登場人物の誰であっても、チャーミングに演じようと思えばそうできる人たちばかりですね。『坊っちゃん』はキャラクターの宝庫みたいな作品ですし、『三四郎』は『坊っちゃん』より世界観を持っている人が多い。広田先生を盛り上げる生きのいい佐々木、寺田寅彦がモデルといわれる野々宮、謎めいた美禰子とか。ひとり芝居では絞り切れないですね。『三四郎』ならこの3人を演じてみたいなと思います。

『門』を演じるときは崖の上の大家さんもいいと迷ったんですが、朝起きたとき「小六しかいない」と思って昔の学生服で登場させました。

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