原発事故のツケが電気料金値上げという国民負担に回される流れができつつあるが、福島県ではいまも復興の道筋が見えてこない。県知事時代に国の原発政策に異議を唱えた佐藤栄佐久氏(77)に福島の“現在”を語ってもらった。
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「たとえ千年かかっても2千年かかっても、元の福島に戻してもらいたい」
佐藤氏は郡山市の自宅で静かな口調で語り始めた。
福島県では現在も8万人以上が避難生活を余儀なくされ、福島第一原発の廃炉まで40年もの歳月を費やすと見られている。メルトダウンした核燃料(デブリ)の取り出しは困難をきわめ、賠償金や除染費用などの総額は21.5兆円の国の試算を上回る見方もある。
それでも国は、ひたすら原発再稼働を追求している。だが、一方で政府の強硬姿勢にあらがうように鹿児島県と新潟県で“脱原発派知事”が誕生した。佐藤氏が力強いメッセージを送る。
「国や電力会社が何と言おうと、県民のための知事なのです。国策に振り回される必要はない。もし電力会社にコントロールされるような人だったら、県民は選ばなかったわけですから。ただし、“原子力ムラ”はすごい力でかかってきますから、そのときこそ、精神力と知事としての真価は試されます。『国といつでもけんかするよ』という意気込みが必要です」
自らそうした姿勢を体現してきた佐藤氏は、参議院議員を経て1988年、福島県知事選に当選。以来、18年にわたって県政に携わってきた。しかし、2006年9月、実弟の会社が関与したとされる汚職事件の追及を受け、5期目の途中で辞任。同年10月に身に覚えのない“収賄事件”で東京地検特捜部に逮捕される。およそ3年間にわたる審理の末、東京高裁が認定したのは「収賄額0円」。それにもかかわらず、12年に最高裁で懲役2年・執行猶予4年の有罪判決が確定した。玉虫色の司法判断に対して「国策捜査」ではないか、と疑問視する声が後を絶たなかった。
事件後、佐藤氏は真相を明かす手記『知事抹殺―つくられた福島県汚職事件』(平凡社)を09年に出版。その著書をもとに自ら出演したドキュメンタリー映画「『知事抹殺』の真実」が今秋完成し、来年1月から全国で順次、上映会が実施される予定だ。
映画では、捜査や裁判での尋問シーンが克明に再現されていく。
佐藤氏や関係者への取り調べは過酷をきわめた。厳しい追及に堪えかねたのか、3人の関係者が自殺を図った。佐藤氏が続ける。