30歳からの約6年間、脚本を書いていた時期がある。ど素人の状態で芝居を始めて10年、何でもいいから芝居について学ぼうと思った。

「何本か書いて、ドラマ化もされたけど、本当に自分のやりたいことはこれじゃないと思って、途中で役者専業に戻りました。でもそのときの寄り道みたいな経験も、まったく無駄になってはいないんです。たとえば、今度の映画『うさぎ追いし 山極勝三郎物語』の台本が上がってきたとき、もっとこれをエンターテインメントに寄せるためにはどうしたらいいだろうかとか、自分なりの視点で考えることができるのは、その経験があってこそ。僕が演じた山極は実在の人物で、人工がん研究のパイオニアなんだけれど、これをただ史実に忠実なだけの作りにしては、お金を払って映画館に足を運んでくださった方の期待を裏切るような、淡泊なものになってしまうと思った。だから、クランクインする前に、プロデューサーと監督に、実験部分をもっとデフォルメして、人間ドラマにしてほしい、とお願いしました」

 山極勝三郎の探求し続ける人生は、遠藤さんの“芝居バカ”な生き方にも、大いに通じるところがある。

週刊朝日 2016年12月23日号