長らく使われていない銀行口座の預金を活用する「休眠預金活用法」。メリットはあるものの“伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏は、その問題点を指摘する。

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 私は旧東京教育大学附属中のとき、水泳部。元大関貴ノ花(全国2位)がバタフライ選手だった杉並区立東田中学と並び、我が校は東京では強豪校だった。私以外はみな逆三角形の体形で、落ちこぼれそうな私のみ正三角形。しかし、先日会ったら、みんな円錐形に。途中経過は違っても、落ち着く先は同じのようだ。

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 銀行で10年以上放置された口座のお金を福祉に使う「休眠預金活用法」が、参議院で2日可決された。

 休眠預金の大半は、残高1万円未満。合計年1千億~1100億円発生する。これを預金保険機構に移したうえで、公益活動に携わるNPO法人や自治会などに、助成・貸し付け・出資できるようにする。預金者が求めれば、払い戻される。

 新聞各紙は実務上の課題を指摘しつつも、おおむね好意的なとらえ方だ。確かに、弱者を守るために余剰金を生かすのはすばらしい。

 しかし、諸手を挙げて賛成するほどすばらしいかというと疑問も残る。参院の審議でその点を質問した。

 資産の再配分は税金や社会保障によるのが普通で、それ以外で行政の関与は特殊。特殊な例は競馬・競艇・競輪等の公営ギャンブルが思いつく。これは「競馬等に興じる人たち」という同一グループ内での再配分で、掛け金を払う人はその点を事前に了解している。

 
 しかし、本法は預金者という同一グループを超えた再配分となり、特殊だ。

 休眠口座のお金の処分には、この法律のようにNPO法人への分配以外に、二つの方法が考えられる。

 一つは従来どおり個別銀行の利益金とする考え方。タクシー料金を払う際の、「お釣りはいらない。取っといて」と同じとすれば、この処置の正当性はある。

 もう一つはNPO等に分配せず、機構の収入としてとどめる考え方。金融危機発生時に1千万円までの預金を保護するため、機構は民間銀行から保険料を徴収している。その資金の一部とするのだ。保険料が十分にたまっていればその分減額でき、預金者への利息増加につながる。預金者という同一グループ内での再配分だ。

 所得再配分は、税か社会保険料で徴収したお金を、予算か国会の承認を得て分配するのが基本だと思う。どこかにお金が残っているたび、再配分の法律を作るのは本道ではない。多用されるべきではない。

 ところで、昨今の米銀は残高の少ない預金の口座保持手数料を要求している。コストばかりかさみ、収益に結びつかないためだ。収益体質が弱くなっている邦銀も今後、同様な手数料を考えざるをえないだろう。

 そうなれば、休眠預金の大半を占める残高1万円未満の預金残高は、10年が来る前にゼロとなる。口座保持手数料として、個別の銀行の利益になるということだ。結果、この法律を作ろうと作るまいと、「休眠預金は個別銀行の利益」という従来の姿に戻ってしまわないだろうか?

週刊朝日 2016年12月23日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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