ただ、音楽に関わるときは、ハーモニーにしても楽器演奏の技術にしても、そこには必ず“美の法則”が存在し、不協和音やヘタウマでは成立しないところに、清塚さんなりの限界を感じることもあるらしい。

「僕が芝居に憧れてしまう理由は、俳優っていうのが“なんでもあり”だからなんです。美しくなくてもいい。芝居の技術がなくてもいい。強い自分さえあれば、表現の限界を超えられるかもしれない。その可能性を感じられるところがいいんです」

 子供の頃は、「この苦しみを乗り越えたら、楽園が待っているんだから、今頑張りなさい」と母親から言われ、一生懸命ピアノを練習した。

「それが、大人になって獲得した幸福は、“朝起きて一杯のコーヒーがおいしい”とか、そんな些細なことばかり(苦笑)。でも今は、それが人生なんだってわかりました。だから今度出すアルバムも、日常を彩り豊かにする手助けをしてくれそうな、聴きやすい曲ばかり集めたんです。日本人の生活の中に、もっとピアノが浸透するといいなと思って」

週刊朝日  2016年12月16日号