北原みのり「『性』と『国家』の狭間で」
連載「ニッポン スッポンポンNEO」
佐藤さんが逮捕されたとき、裏切る男たちは多かったけど、周囲の女性たちは変わらなかったという。女たちがぶれないのを、女性がおかれている社会構造に想像を巡らせて考えられる佐藤さんに、私が改めてフェミニズムについて伝えることなどないに等しかったが、私たちは檻の中ネタで盛り上がったり(佐藤さんが検察で食べたコッペパンは私が検察で手錠をつけられたまま食べたコッペパンとは味が違うらしいとか)、時に小さくぶつかったりしながらも、昔からの友達だったと錯覚するように自然に会話できた。佐藤さんと対話する時間は、逮捕後、私の最も貴重な時間の一つになった。
私たちはいろんな話をした。沖縄のこと、日本軍「慰安婦」のこと、現代の性売買問題のこと。国家について語れば、それは差別について語ることになり、権力について語れば、それは痛みに対し、私たちはどのように言葉を紡ぎ闘っていくべきかを考えることになった。政治が剥き出しの暴力で暴走しはじめている今の時代、とにかく学ばなければ、知らなければ、語らなければ、という思いで私は佐藤さんと語った。
そのように語ってきたことが、先日、河出書房新社から出版されました。タイトル『性と国家』。「性」と「国家」の狭間に落ちた2年間でしたが、そこから浮かびあがるには、友情と言葉を信じて紡ぐしかないよね、と実感する本になりました。手に取っていただけたら嬉しいです。
※週刊朝日 2016年12月16日号
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