落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「ノーベル賞」。

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 ストックホルムでノーベル賞の授賞式が行われる。ノーベル賞の知識はほぼゼロな私が、ノーベル賞について語りたい。やってやれないことはないのです。

 ストックホルムはたしか北欧のどこか……スウェーデンだっけか? リレーと福祉とフリーセックスの国。北だし、かなり寒いはず。なにも寒い時に、寒い国でやらなくてもいーんじゃないか? 飛行機は大丈夫か? 雪で止まらないか? みんな風邪ひかないか? せめて夏場にやればいいのに。とにかく心配。

 今年はボブ・ディランだ。まさかまさかの文学賞である。

 何がまさかって、ボブ・ディランってまだご存命だったとは!? 私は黒人のチリチリの、ねじねじの髪の毛の、ノリノリの人かと思ってたのだが、あれは別人だそうな。ホーナーでもサップでもなく、ディラン。

 なんでも「フォークの神様」らしい。杉下茂(中日)ではない方の。日本で言うと……南こうせつ? フォークの知識ゼロな私を許してください。とにかく「アメリカの南こうせつ」がノーベル文学賞ということだ!

 で、そのこうせつ(米)になかなか連絡つかなくてノーベル賞の人たちがオカンムリだったらしい。電話? メール? 手紙? どんな手段で連絡をとろうとしたんだろう? こうせつ(米)ならいい人っぽいから、アポなしで行っても会ってくれるよ。「愛想なしですいません」と、薄っぺらい座布団と薄いお茶の一杯も出してくれそう。

 たぶんこうせつ(米)の家の電話の受話器が上がってたんじゃないかな。ずーっと話し中。受話器が上がっていても、こうせつ(米)は気がつかなさそう。

 もしくは長期のツアー中だったのか? アパートの大家はさぞかしヤキモキしたろうな。郵便受けはノーベル賞からの手紙が溢れ、電話は鳴りっぱなし。

 
「あんた、どこ行ってたの!?」
「あ、大家さんっ! 家賃はもうちょい待ってくださいっ!」
「そんなことじゃないよ! あんた、ノーベル賞だよ!」
「へ? ノーベル賞!? 私、まだ食べたことない!」
「バカーっ! 早く先方に電話しなさいっ!」

 ……なんてひょうきんなやりとりがあったに違いない。

 そんな中、こうせつ(米)は先約があるので授賞式を欠席するという。義理堅いこうせつ(米)は、先に入った営業を優先させる。「やっぱり男だな!」と思ったが、実は違うんじゃないか。

 きっとスウェーデンの寒さにビビって、家で布団にくるまっているに違いない。マフラー代わりの赤い手拭いだけでは、石鹸もカタカタ鳴るほど凍えてしまうだろうし。同棲相手のパート代でオーバーを買うには間に合わないし。若い二人にそんな余裕はないはず。

 だから授賞式は暖かい季節がいいと思うのです。こうせつ(米)のためにもよろしくお願いします、ノーベル賞の中の人。

 あと来年は村上さんにお願いします。やっぱりスウェーデンとノルウェーは隣同士で仲が悪い(イメージ)からもらえないんでしょうか?

【追記】さっきボブ・ディランの画像を検索したら井上陽水の成分が強めだったので、文中の「こうせつ」を全て「陽水」に、授賞式に行かない理由は「傘がない」からに訂正します。

週刊朝日  2016年12月16日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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