北中:来日公演前に、ザ・バンドとやった「ラスト・ワルツ」を聴いて、ずいぶん歌い方を変えているんだなというのは感じてました。音楽雑誌でも情報は仕入れていましたが、アレンジが全く違い、何の曲なのかわかるまでは落ち着きのない感じだったのを覚えてます。

菅野:今のようにYou Tubeですぐ見られるものでもないしね。衣装もちょっと飾りのついた白の上下のスーツだったり、女性コーラスがついたりね。フォークのならず者が、小奇麗な感じになっていた。

北中:当時のディランは、ステージで白塗りっぽいメイクをしていましたよね。

菅野:アイラインもひいてました。遠くからよく見えるようにという意味もあるでしょうが、その前のツアーのときに撮っていた映画の影響もあるんです。何度目かに来日したときには、宝塚のポスターを欲しがったんですよ。

北中:宝塚? 初めて聞きました。女性だけのミュージカル劇団というのは世界的にも珍しいですしね。

菅野:メイクなのか何なのか、引っかかるものがあったんでしょうね。たまたまその女優さんが気に入ったのかもしれませんが。

北中:86年の来日の際には、朝日新聞の篠崎弘さんが行ったインタビューに同席して、少しだけ質問させてもらいました。そのときに語っていたのが、「ライブを見ていろんなことを思うのはご自由に」ということでした。彼はそのとき一番いいと思うことをやっているだけなんですね。ライブはお客さんとの関係性で成り立つもので、私はその空気を読んでやるだけだと。

──今後、ノーベル賞のメダルもステージに飾るのでしょうか。

菅野:メダルじゃ見えにくいからなぁ(笑)。

北中:オスカー像も、飾っている本当の意図はわかりませんよね。そのへん、ファンが深読みするのをおもしろがってるところもあるんじゃないでしょうか。

菅野:もちろんそこにはうれしさも含まれているだろうけどね。(構成 本誌・太田サトル)

週刊朝日 2016年12月16日号